対
話
店の入口を入った途端に、威勢のいい声が客を迎えてくれる。そんな店は嬉しいが、それが義務感で発せられている場合もあるから、威勢が良すぎてカラ元気に聞こえてしまうのか、それとも、本当に心が籠っていないのかをよく見極めなければならない。
煽てに乗り易い人はともかく、普通の人にとって、その声の本質を聞き分けることは、それほど大変なことではないと思う。大根役者を例に挙げるまでもなく、人間の声には不思議な力があって、感情と息の流れがちぐはぐになると、それは直に分かってしまう。
腕のいい料理人は、大抵、客との対話を始めるきっかけを作るのがうまい。押しつけでもなく無理強いでもなく、自然に話が始まるのだが、そのためには、客の方にもその店で料理を味わうのだという自覚が必要なような気がする。一方的では、対話とは言えない。
出された料理を眺めているだけで、その料理は言葉少ない料理人に代わって、様々なことを語りかけてくるが、それを口に運ぶと、さらに色々なことを喋り出す。それに対して一つ一つ答えてやるのが客の役目かも知れない。これが、味わうということだと思う。
料理人はその料理を通して客に話しかけてくるのだし、客はその料理を味わうことによって料理人との対話を楽しんでいる。料理を作る人たちは、その作業や作品を通して、人との対話を楽しもうとしているのだ。料理は、全て、この対話が基本になっている。 |
|