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季刊誌「ムラマツ」に掲載されたエッセイをご紹介いたします。
トップページエッセイ「もがりぶえ」 > 14. バッグ・パイプ
エッセイ「もがりぶえ」 ESSAY
文:團 伊玖磨
14 「バッグ・パイプ」
 スコットランドにバッグ・パイプをを調べに行った事がある。事の起りは、その又ずっと前、1956年の夏、音楽祭を聴くためにエディンバラに滞在していた時、コンサートの無い午前中に観光に行ったエディンバラ城内の中庭で、タトゥー・バンド(バッグ・パイプの楽隊)の演奏後進を見て興味を持ったのが始まりだった。その時も少しは調べて、軍隊が用いている大型のバッグ・パイプ以外に、民間の素朴な楽器もある事を知ったし、ヨーロッパの各地、殊にフランスの田舎や、スコットランドにとっては隣りの島であるアイルランドにも種々な類似の楽器があって、ショパンの恋人であったジョルジュ・サンドの小説「笛師の群」に出て来るメ笛モは、フランスのそれである事も知った。

 面白く思ったのは、軍隊の大型のバッグ・パイプは、息を一先ず羊の皮で出来たバッグ内に送り込み、そのバッグを肱で押す事によって空気をリードの付いた4本の管――英語ではdroneと呼ぶ――に送る仕組みになっているが、民間の素朴な楽器には、人間が息を吹きこむ事をせずに、ふいごを用いてバッグに空気を常に送る仕組みのものも見受けられた。いずれにしても、空気を一度バッグに入れる事によって、ブレス無しに、幾らでも長く音を持続させる事が出来る事が特長になっている。所謂ブレスで音が切れる事を避けようとした欲求が昔の人にあってこういう楽器を考案せしめたのか、或いはこういう楽器を作った方が先で、その結果ブレス無しの音の美しさを人が知ったのか、その辺を考える事が非常に面白かった。

 ルイ王朝時代に好まれたMusetteという音楽形式、バロックにも現れるHorn Pipeの形式、それ等は、皆、種々のバッグ・パイプから出来上がった音楽の形式だった。今のスコットランドの軍隊のあバッグ・パイプもそうであるように、低音が果てしなく通奏される不思議な音楽的効果は、完全5度上のテノールを伴った二音の保続効果とともに、例えばベートーヴェンの第6交響曲の冒頭等にもその影響を与えている事に気付かれるだろう。民間のバッグ・パイプは、素朴な農民の楽器だったのである。

 2度目の旅の時、スコットランド軍楽隊を訊ねて、印象的な話しを聞いた。タトゥー・バンドの隊長は、楽器を巧みに演奏した後に、バッグとパイプを幾つかの部分に分解して説明した。

 もしも、英国がその最盛期に7つの海を支配しなかったとしたら、この立派なバッグ・パイプは出来ませんでした。何故なら、この低音管の末端に嵌めてある環は印度の象牙、羊の胃と皮はアイルランドのものが最上、管の黒檀はアフリカ産、金属部分はドイツ製、リードはフランスのものです。スコットランドの誇る楽器ではありますが、スコットランド製の部分は、バッグの外側に+貼ってあるウールのスコッチ・タータン・チェックだけです。不思議でしょう? そこが、楽隊用の立派な楽器と、民間の素朴なバッグ・パイプの差なのです。

 説明を聞いて、別れる時に、楽長はもう一言付け加えた。

 忘れていました。もう一つスコットランド製の部分がありました。それは、吹奏している人間が全部スコットランド人である事です。これを覚えておいて下さい―――。

(このエッセイは、1983年より93年まで、季刊 『ムラマツ』の巻頭言として、團 伊玖磨氏に執筆していただいたものを、そのまま転載したものです。)
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