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季刊誌「ムラマツ」に掲載されたエッセイをご紹介いたします。
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エッセイ「もがりぶえ」 ESSAY
文:團 伊玖磨
15 「ノーズ・フリュート 1」
 北京には美しい公園がいろいろとあるけれども、僕は北海(ペーハイ)公園を散策する事が好きだ。遠くから見える丘の上の白い喇嘛(ラマ)塔が大きな池――北海に映り、夏には水に蓮の花が揺れる。その白い喇嘛塔と池の間に *「ほう膳」という美味しい料理店がある。清朝の頃の宮廷の膳部を倣ったという意味で「ほう膳」の名が付いた上等な店である。

 この間、東京交響楽団と一緒に北京に行った時、中国の友人に招かれて「ほう膳」に行った。色々な料理が出た中に蓮根の料理があった。中国の友人が蓮根の一片を摘んで、「これは身体によい薬です」

 と言った。何故と問い返す僕に、彼は、よく蓮根をごらんなさい、人間の身体にある穴の数と蓮根の穴の数は同じです。眼が二つ、耳が二つ、鼻が二つ、口が一つ、あと下半身に二つ、計九つでしょう、ですから蓮根を食べると身体の九つの穴が全部健全になるのです、というのだった。面白いので、その事を備忘のノートに記しながら、僕は、全く突然、南太平洋の島で聴いたノーズ・フリュートの静かな音を思い出した。要すれば口も鼻も身体の穴なのだと考えなおしたからだったのだと思う。

 ギリシャの楽器の中に鼻で吹くフリュートがあった事は聞いているが、演奏を聴いた事は残念ながら無い。僕が親しく演奏を聴いたのはフィリピン、ハワイ、そしてタヒティでだった。

 マニラのCCP(Cultural Center of Philippine)の館長で音楽理論家でもあったルクレシア・カシラク女史は、1965年に同館でオペラ「夕鶴」を上演して以来親しい友人なのだが、ある時、フィリピンの民族楽器の話しをしていた時、これからすぐ民族楽器の博物館に行こうという事になって、博物館に着くと、女史が数十種類のフィリピンの民族楽器を片端から演奏して呉れたその中に、竹製のノーズ・フリュートがあったのである。音は静かな、暖かい音だった。その時記念に頂戴した一本を僕は今でも愛蔵しているが、先端が節になっていて、そこに空けた小さな穴に鼻を当て、胴には親指用の穴が一つ、反対側に三つの指穴が開いている。

 次にノーズ・フリュートを聴いたのはタヒティ島でだった。タヒティのものは木製で飾りが細かく彫られ、草で編んだ大きな冠をかぶった巫女のような老婆が吹いていた。宗教的な目的の演奏だった。面白かったのは、鼻の穴一つから効率よく息を出すために、不要な方の鼻の穴に紙を詰めて息が出ないように準備がしてある事だった。音は矢張り静かで暖かかった。次はハワイ島。ハワイの音楽は古くタヒティからの流入であるので、大体同じようなもので、もっと簡単な笛だった。

 僕は、ノーズ・フリュートを聴きながら、古代の人間が、鼻にも口にも笛を吹く仕事を与えた事を面白く思っていた。そして、フリュート属だけが、鼻での演奏が可能な事を考えていた。ラッパ属や、双簧管属では、機能的に鼻での演奏はしようにも出来ないからである。
(つづく)

(このエッセイは、1983年より93年まで、季刊 『ムラマツ』の巻頭言として、團 伊玖磨氏に執筆していただいたものを、そのまま転載したものです。)

* 原文は「 びんなん(ほうぜん)」 と表記されておりますが、日本語環境では表示ができないため文中では「ほう膳」と表記しております。
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