私はフルートの優しい“笛の音(ね)”が大好きです。また毎日それを追い求めています。そして正直言って、人に上手になることを教えるより、もっと自分が上手になりたいと今でも思っています。
小学生の時、初めて聴いたフルートの生の音は、消防団のボランティア、つまりアマチュアの方の演奏でした。しかしその時の涙が出る程の感動は今でも忘れられません。嬉しいような、悲しいような、兎に角それまでにない不思議な感覚の世界に引き込まれ、心臓が高鳴り、鳥肌さえ立ちました。子供心に「人の息って魔法だったんだ!!」と悟ってしまう程でした。
その後幸運にも私はフルートを志すことが出来、今でも毎日フルートのケースを開ける度に心がときめき、時を忘れてさらいますが、未だその時の消防士のレヴェルに達したとは思えませんし、又その人は私の思い出の中でどんどん上手になっていくばかりです。
そんなこんなでもう中年!笛吹きは掃いて捨てるほどいるし、いつの間にか先生とは呼ばれているものの、最近レッスンでのネタも切れてきたし「我が音楽(笛)人生のピークはもう過ぎ去ったのか?このまま頭の堅いジジーになっていくのか?いやもう一発“喝”を!!」と突発的且つ我侭な決意を固め、再度フランスに留学をしてきました。
テーマは若い時には考えもつかなかった『演奏技術ではなく、演奏芸術としてのフレンチ・スクール』で、文化財的フレンチ・スクールの老巨匠達のレッスンを伝承芸術として受けることが出来、ヨイヨイのジジーになっても燃やし続けられるエネルギーと課題を頂いてきました。
又私は教室でのレッスン中にも生徒さんのフルートや音楽に対する愛情や情熱に圧倒される時があります。そういう時には逆に教えて頂いている事になる訳で、頭が下がると同時に「多少音が出て指が回るだけのプロじゃ、ナンボのモンだろう?」と考えさせられます。
私のレッスンでのモットーは、何が無くとも、フルートの命“音色(ねいろ)”です。人それぞれの好みはあるでしょうが、汚い音を求める人はいないでしょう。どんな簡単なメロディーでもその人が大好きな曲を吹いてもらえば良くわかります。後はゆっくり気長にテクニックを付けていきましょう。そして、その間に素晴らしい音楽を聴き、素晴らしい美術を見、素晴らしい自然に身をゆだね、またその素晴らしき笛仲間とおいしいテーブルを囲み… なぜなら、フルートの魅力は一言では語れないし、ずっと吹いていたいから。