桑野

今日も、彼の笛の音が聞こえてくる。 
彼の笛は町のリズム。
朝8時の笛は、一日の始まりのお祈り。何となくすがすがしい気持ちにさせてくれる。
昼1時の笛は、昼食後のおひるね。2時になると、いつも音がはずれる。それが、午後の仕事の合図。
夜8時の笛は、おやすみの言葉。一日を振り返らせてくれる。
クリーニング屋のおじさんは、お風呂で聴き、角のたばこ屋のおばちゃんは、聴きながら日記をつける。
おかげで彼女の日記は、彼の笛の採点表。
彼の笛の音は、天気予報。
「今日は一日雨だね。」 「午後から晴れそうだ。」
「今年の夏は、暑くなりそうだ。」 「春が近そうね。」
彼の笛は、言葉。
町のみんなは、挨拶がわりに 「悲しい事あったのかなぁ。」 
「すっかりすねてるね。」 「いい事ありやがったな。」 と会話を交わす。
彼の笛の音は、決して上手ではないが、町を温かく包み込む。
そんな彼だが、誰も会った事はない。
今日も、彼の笛の音が聞こえてくる。

私は、こんな風に素朴で温かく語り掛ける音楽をしたいと思っています。そのために常に新しい感覚、考えに触れ、それらを自分のことばとして音色や歌、音楽に投影するようにしています。(古いと思われるものも、初めて出会う私にとっては、新しいのです。)
断片的なアイディアを壊さず、より良く言葉にする。そんなレッスンにしていきたいと思っています。皆さんの感覚に出会うのを楽しみにしています。
皆さん。フルートを吹いてみたくありませんか?