× このウィンドウを閉じる |
E.イウェイゼン(1954-)は、1980年から母校であるジュリアード音楽院で教職に就いているアメリカ出身の現代作曲家である。耽美主義の画家J.A.M.ホイッスラーが制作した≪孔雀の間・青と金のハーモニー≫(元英国富豪F.R.レイランド自邸食堂、現在はフリーア美術館所蔵)からインスピレーションを得て2011年に作られたとされるこの曲は、ネオ・ロマンティシズム、あるいはネオ・インプレッショニズムと呼ばれるイウェイゼンのスタイルが顕著に表れた作品である。 [第1楽章]「陶器の国の姫君」ホイッスラーが描いた日本趣味的要素が強く示された肖像画の題名であり、作品は≪孔雀の間≫の暖炉の上に飾られている。6連符と16分音符により表現された東洋的かつ幻想的な背景に、姫君を思わせる魅力的な旋律が紡がれている。 [第2楽章]「色彩の対位法」躍動感に満ちたリズム、そして各パートが対位法的にキャッチボールを交わすこの楽章は、≪孔雀の間≫の青緑色の壁と、そこに飾られた白磁の壷や大皿が生み出す東洋的な色彩の対比を表している。 [第3楽章]「芸術家」イウェイゼンは、学生時代にピッコロのピアノ伴奏をした時からその魅力に引き込まれ、ピッコロが活躍する作品を多く書いている。ピッコロと2ndフルートが対位法的旋律を奏でる落ち着いたテンポのこの楽章もその一つで、地味な色彩や形態の組み合わせによって調和のとれた作品を描いていたホイッスラーのことを示している。 [第4楽章]「闘う孔雀」≪孔雀の間≫の≪陶器の国の姫君≫と向き合う南側に、闘う二匹の孔雀が金色で描かれている。この孔雀はホイッスラーがと作品の依頼者であるレイランド氏を表しているといわれ、曲中の鳥類を思わせる鋭い動機と変速リズムの噛み合わせが、二人(二匹)の激しい対立を髣髴させる。 〜演奏のポイント〜 正確な指回しが必要な作品ではありますが、各楽章に物語性のある題名がついており、イマジネーションを掻き立てられる楽曲です。 第1楽章は16分音符や6連符を主張しすぎないように注意すると、姫君の旋律を引き立たせることが出来ます。この楽章の美しさを保つのは伴奏にかかっていると言っても過言ではありません。旋律はスラーに惑わされず、大きなフレージングを心がけましょう。 第2楽章はテンポ維持を気にしすぎると無機質になってしまいます。全体に流れるリズムの統一感やスコアの縦ラインを合わすことも重要ですが、旋律の膨らみを感じつつ後半へと盛り上がっていくことも大切です。8分の12拍子を2拍で感じると、推進力が落ちにくくなります。 穏やかな印象の第3楽章ですが、静と動の入れ替わる瞬間や旋律のつながり、フルートとピッコロのユニゾンに注意が必要です。特に場面が変わる時には焦って間合いを詰めてしまいがちです。自然な呼吸を感じて上手に場面転換してください。 第4楽章では、息のスピードを落としてしまうと題名にある「Fighting」のイメージが損なわれてしまします。ダイナミクスの幅を大きくし、休符にも緊張感を持たせて走り抜けるように吹きましょう。 |