ある晩、島の集まりに参加したときのことです。
一人のアーティストがセレナーデを歌おうとしたとき、誰かが1音高く移調した方が彼の声に合うと指摘しますが、誰一人伴奏することができません。サン=サーンスはじっとしていられず、名乗り出て伴奏しますが、島民たちはその能力に驚かされます。好奇心をかきたてられた島民は、この謎の人物は一体何者かと情報を探し、ついにはシャルル・サノワと名乗る商人ということを突き止めます。
宿泊先のホテルでもサン=サーンスは謎の人物でした。
商人にしては口下手で誰とも話さず、手紙さえ受け取らないその習慣に、先ずは宿泊客が疑念を持ちます。

ホテルのオーナーと宿泊客は、思い切って部屋の鍵穴から中を覗きますが、そこで目にしたのはなんと、長い線の書かれた紙に(おそらく五線紙)、ハエの足の群れのような小さな記号(たぶん音符では...)を無数に書き込む姿でした。

妄想の膨らんだ宿泊客とオーナーは、これを暗号で報告書を書く敵国政府のスパイと確信し尾行を始めると、サン=サーンスはそれを察し、瞬く間にホテルから姿を消します。