ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~
Memories Of YouVol.8 大木 淳子 先生
J.S. バッハ
無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013
大学を卒業して数年後の夏に参加した、アメリカのアスペン音楽祭『Young Artists Concert』で演奏したJ.S.バッハの「無伴奏フルートのためのパルティータ BWV1013」が、私の思い出の曲です。音楽祭の期間半ば頃、レッスンを受けていたネイディーン・エイシン先生からコンサートに出演する機会をいただきました。曲はマルタンの「バラード」を選んでいただき、日々練習を重ねていたところ、本番一週間前に会場がピアノのない美術館に変更され、急遽、無伴奏のパルティータを演奏することになったのです。
しかも本番まで一週間、、、と不安いっぱいの私に、
「ジュンコ、これを写しなさい」と渡された先生の楽譜には、全楽章に、ダイナミクス、アーティキュレーション、ブレスの位置、曲想、速度の変化、音色のイメージ等が鉛筆で細かくびっしりと書かれていました。
本来ならば、これらのニュアンスは、まず自分で演奏しながら考えるのでしょうが、この時切羽詰まっていた私は、その楽譜にすがるのみでした。おそらく先生は、少ないレッスン時間では全てを伝えきれないと考えられ、ご自身の楽譜に書いてくださっていたのでしょう。
コンサートまでは一度きりのレッスンでしたが、楽譜の中のニュアンスをなんとか自分の音にしようと必死の私に、根気よく情熱的に教えてくださった先生との時間は、充実した忘れがたいものになりました。
今でも、鉛筆の書き込みで埋め尽くされた楽譜を開くと、レッスンの思い出と共に、アルマンド、コレンテ、サラバンド、ブレー・アングレーズそれぞれのメロディーが生き生きと踊っているように感じられます。
無伴奏の曲に苦手意識を持っていた私に、フルート一本で歌い、表現する楽しさを教えてくれたバッハの「パルティータ」は、初心を思い出させてくれる特別な一曲です。
OKI JUNKO
大木 淳子 先生 先生 /横浜教室 水、木曜日クラス
大木 淳子 先生 先生 /横浜教室 水、木曜日クラス
桐朋学園大学音楽学部卒業。同研究科修了。
フルートを峰岸壮一氏に、室内楽を小出信也、野口龍の各氏に師事。
1986年、アメリカ・アスペン音楽祭に参加し、ネイディーン・エイシン女史に師事。現在、室内楽を中心に活動しているほか、アマチュアフルートアンサンブルの指導にもあたっている。
ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師。
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