ムラマツ・オンラインショップ
会社概要お問い合わせマイページ
ムラマツフルートレッスン楽譜CD/DVDコンサート・ガイド
店舗案内リペアメンバーズクラブアクセサリームラマツ・ホール

ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~

Memories Of You

Vol.13 野勢 善樹 先生

Ph.ゴーベール
ファンタジー

今から45年前のパリ留学中、習っていたクリスティアン・ラルデ先生に幾度お願いしてもレッスンしていただけなかった曲がありました。フィリップ・ゴーベール作曲の「ファンタジー(幻想曲)」です。バロック音楽を含めたフランス音楽を中心に、演奏技術や表現に対するアドヴァイスを丁寧に教えていただいているうちにゴーベールの作品、その中でも特に「ファンタジー」に未知なる魅力と寄せ付けない威光を感じるようになりました。

ある日のレッスンの後、先生に「ゴーベールのファンタジーをみていただけないでしょうか?」と伺うと。「君にはまだ早い!」と少し怒った顔で言われました。その後何度か伺いましたが、いつも同じ返事でした。そして留学して1年半くらい経った頃だったでしょうか、先生の方から「次回からゴーベールのファンタジーを教えるからしっかり練習してきなさい」と言われたのです。
そしてレッスン当日、まず先生はご自身の書き込みのたくさん入ったボロボロの楽譜を見せてくださり。「この部分の書き込みと訂正は、私の先生ガストン・クリューネル先生が書いてくださったもので、そのまた昔同じようにクリューネル先生の楽譜に師匠であり作曲者自身でもあるゴーベール先生が『君の生徒に私からの伝承として君が直接書き込んで伝えてください』と言われたので、ゴーベールのひ孫弟子である君の楽譜にも私がこれから書き込みます」と言って、私の楽譜に丁寧に書き込んでくださり「これからの君の生徒さんたちにも君自身が書き込んでゴーベールからの伝承を伝えてください」とおっしゃいました。

フルートの巨匠ゴーベールが書いたフルートならではの魅力を最大限に活かした、この上なくロマンティックなこの作品は、同じ奏者でも吹くたびに違う即興的魅力に富み、豊かな感性における表現力、高度な演奏技術、そして何よりも美しい音色が求められます。

この曲は1912年に作曲されましたが、ゴーベールがパリ音楽院教授に就任した1920年の卒業試験課題曲として前任のレオポルド・ラフローランスに献呈され出版されました。そして、ゴーベールの後任であるマルセル・モィーズの教授就任の1932年、さらにその後任のクリューネルの教授就任の1941年の卒業試験課題曲として使用されたことは、この曲がいかにフランスのフルート界にとって重要な曲であることが理解できます。また、フランスで最も保守的にフランスらしい文化と伝統、そして音色を継承することを信念としているパリ国立オペラ座管弦楽団のフルート奏者の入団試験に欠かせない課題曲としても常に使用されフレンチ・スクールの金字塔的名曲として認められています。

さて、私の初の「ファンタジー」のレッスンの続きですが。未熟な私の演奏の後、先生が私の横に立ち演奏してくださいました。目を閉じ深く息を吸い、醸し出された音色は、まるで静かに咲いた薔薇のようで香りに満ちていました。ゴーベールのフルートへの愛情と情熱が伝承されました。私にとって決して忘れることのない、思い出の名曲です。

<楽譜のご案内>

楽譜ID:34647

ファンタジー

Ph.ゴーベール

出版社:SALABERT

購入はこちらから

NOSE YOSHIKI
野勢 善樹 先生 新宿教室 水・木・土曜日クラス

国立音楽大学及びパリ・エコール・ノルマル音楽院卒業。フルートを曽根亮一、林りり子、小出信也、吉田雅夫、Ch.ラルデの諸氏に師事。
1979年、サンジェルマン・アン・レイにてパリ市主催「現代日本音楽祭」に出演。1980年パリUFAM国際音楽コンクールを満場一致の第1位受賞。1999年「フルート演奏におけるフレンチ・スクール」の研究のため、文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランスに渡り、Ch.ラルデ、M.ラリュー、R.ギヨーの諸氏に師事。帰国後、2000年文化庁芸術祭参加リサイタル「20世紀フレンチ・スクールを讃えて」、2002年「20世紀日本フルートのルネッサンス」と題したリサイタルを開催した。1996年CD「ル・ジャルダン・フェリック<妖精の園>」、2017年「ビリティスの歌」をリリース。
現在、バロック音楽から現代音楽までの幅広いレパートリーに定評あるソリストとして国内外で活躍している。尚美学園大学・同大学院兼任講師、ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師。 「アンサンブル・インタラクティヴ・トキオ(EIT)」代表。

※プロフィールは、掲載時のものとなります。最新情報につきましては、こちらよりご確認ください。

Vol.14 矢野 正浩 先生(次回掲載予定)