解説
J.S.バッハのロ短調ソナタは、極めて奥の深い作品です。何の予備知識も持たずに白紙の状態で聴いても、忘れ難い印象を残す独自性がありますし、何回演奏しても、また新たな可能性に気付かされるのです。バッハの当時のフルートは1キーの楽器だったので、楽器の能力を限界まで想定し、チェンバロのパートにも、バッハ自身の卓越した技量を前提にしたあふれるばかりの音楽が書き込まれています。もともと、このソナタにはト短調の原曲があったと考えられ、1736年頃に原曲を3度移調してロ短調で書かれた自筆譜が残されています。第1楽章は壮大な規模で書かれ、ロ短調の持つ独特の調性格 (マテゾンの表現によれば、「奇異で不快、憂鬱」 ) を使い、半音階とシンコペーションを多用し、重層な音楽を作り上げています。第2楽章は対照的に、フルートをソロパートのように見立てた明るいニ長調の楽章で、シチリアーノのリズムを取り入れています。第3楽章は再びロ短調に戻り、フルートとチェンバロの両手の上2声とコンティヌオによる緊迫した3声のフーガとなり、切れ目なく続く12/16拍子のジーグが軽やかに個性的なフィナーレとなります。実際にこの曲に取り組むと、まずスラーのかけ方などわからずにとまどうことが多いかと思いますが、フラウト・トラヴェルソ奏者バルトルド・クイケンの校訂したブライトコフ版は、必要最少限のスラーを入れて、新しい情報と実用版を兼ねた親切な楽譜だと思います。(解説/三上明子)ニュース
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