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ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~

Memories Of You

Vol.24 大澤 明子 先生

C.W.グルック
精霊の踊り(歌劇"オルフェオとエウリディーチェ"より)

家から歩いて3分の公立中学校の吹奏楽部で学校の楽器を借りたのが、フルートとの最初の出会いでした。顧問の渡邊亞紀人先生が吉田雅夫先生門下で国立音楽大学フルート科をご卒業でいらしたことが、私の大きな幸運でした。中2に上がる時に、とても職業に結び付くとは思えなかったけれど「どうしてもフルートを専門に学んでみたい」と申し出て、先生の愛弟子の、当時音大生でいらした鈴村栄里子先生をご紹介いただきました。私が今あるのは両先生のお陰です。

間もなく渡邊先生が人前で吹く機会を下さり、選んでいただいた曲が、この「精霊の踊り」でした。特に後半の、あたかも歌詞が聴こえてくるような旋律や溜め息を思わせるフレーズ、ピアノには無い"フルート=息"ならではの表現に、ギリシャ神話も大好きだった私はすっかり魅了されました!
本番の前に1度、渡邊先生に聴いていただくことになり、ピアノを頼んだ友人と大緊張でレッスンが始まりました。後半に比べれば簡単と思っていた前半冒頭から、まずテンポの合図が「×」。ドは低くラは高くファの長い音は不安定、ブレスは遅く、フレーズの向かう方向と着地点が不明、更にひと息で吹き切らないとフレーズの価値が半減する...。最初のリピート記号まで、永遠に辿り着けない気がしました。憂いも穢れもない天上の世界には調和のとれたハーモニーが不可欠、そして聴く人に少しでも「?」と思わせる要素はNGなのでした。ソロの演奏は最初の1音から主体的に、テンポ、音程、音色等の明確なイメージを持って"創り"上げて行く作業なのだと痛切に学び、先生はこのレッスンをして「フルートを専門に学んで行くとはどういうことか」を示して下さったと感じました。かくして「精霊の踊り」は、登山初心者の”高尾山”ではなく、ヨーロッパの名峰"ユングフラウ"のように、私の中に聳え立ったのでした!

そしてこの曲との2度目の幸運な出会いは、藝大フィル(藝大管弦楽研究部)入団の最初の年。丁度藝大百周年で、東京音楽学校時代の日本初演を再現する催しが旧奏楽堂で行われ、その演目が歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」でした。指揮は、かの山田一雄先生!ここで再び大きな学びがありました。純正律と平均律を絶妙に泳ぎ渡る弦楽器群はまた格別の美しさで、がそれ故ユニゾンは更に1ランク上の難しさ。しかもただ溶け込むのではなく、五線の中の音域であっても光のようにその上に存在しなければなりません。そしてバレエ音楽のテンポは踊りが絶対優先!フルートが楽に吹けるように早くしてくれることはありません。オーケストラの中のソロの役割がこれ程厳しい制約の中で果たされることを、身を持って知り、それは音楽の聴き方の、新たな尺度と魅力の発見ともなったのでした。

それともうひとつ。「オルフェオとエウリディーチェ」を全曲演奏出来ると知った私は、きっと「精霊の踊り」のような香りを持つ"知られざる名曲"が2,3曲は発見出来るに違いない!と大きく期待を膨らませました。が、残念かつ失礼ながら、最後の方のオルフェオが歌う清らかなアリア1曲以外、ハッとするような印象的なところは全くなかったのです。この曲の体験で、百年以上経っても皆が再演を望む曲が如何に類い稀なものか、普段私達が当たり前のように馴染んでいる「フィガロの結婚」や「魔笛」などのオペラが、いかに特別中の特別な存在かということも改めて分かったのでした。

ところでこの「精霊の踊り」、天国の妖精のシーンからオルフェオの嘆きの部分へ移るのはいいのですが、再び天上のシーンに戻ってしまいますよね。この音楽がストーリーの一体どこに必然性を持って配置されているのか?!これが中学生以来長年の疑問でした。歌劇を演奏した時に、場所は第二幕第二場と分かりましたが、演奏中舞台が一切見えなかったこともあり、腑に落ちないまま終わりました。謎は随分経って曲目解説のために調べ直してやっと解明しました!今だ悩まれている方のために是非お伝えしたいと思います。

まず、グルックは何とあのマリー・アントワネットの音楽の先生だったのでした。王妃がまだオーストリアにいる時に「オルフェオとエウリディーチェ」は既に作曲され成功を収めていました。王妃が嫁いだ後、追ってパリに行き、彼女の庇護のもとこの歌劇が上演されました。その際にパリ版として新たに作曲されたのがこの「精霊の踊り」だったのです!ルイ14世がバレエ好きだったことからフランスにはオペラの中にバレエを盛り込む文化があり、彼らへの特別サービスだった訳です。歴史上の出来事がこんなにもこの曲の誕生に関係していて、しかもこの曲が生まれていなければ、もしかしたら私達はこの歌劇どころかグルックの名前すら知ることはなかったかもしれないと思うと、改めて深い感慨に打たれます。
フルーティスト直伝「ひとりでできるフルート練習法!!」 に大澤先生の記事を掲載中です。こちらもぜひご覧ください

<楽譜のご案内>

楽譜ID:16461

精霊の踊り (「MFLC講師が選んだ40フルート小品集 」より)

C.W.グルック

出版社:MURAMATSU

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OSAWA AKIKO
大澤 明子 先生 新宿教室 木曜日クラス

東京藝術大学及び同大学院修了。在学中、安宅賞受賞。1981年ルヴァンヴェール木管五重奏団メンバーとして第18回民音室内楽コンクール第1位。1983年第34回ミュンヘン国際コンクール木管五重奏部門ファイナリスト。1996年に東京文化会館小ホールに於いて第1回リサイタルを開催。更に2006年より〈フルート室内楽の喜び〉を企画主宰し、16回のコンサートを開催。2020年に、フルートとピアノによるCDアルバム『BLISS』をリリース。フルートを鈴村栄里子、宮本明恭、川崎優、湯川和雄、金昌国、H.P.シュミッツ、各氏に師事。2021年まで藝大フィルハーモニア管弦楽団(東京藝大管弦楽研究部)フルート奏者。現在、ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師、また東京交響楽団、新日本フィル、札幌交響楽団にゲスト首席として度々客演。

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Vol.25 高久 進 先生(次回掲載予定)