ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~
Memories Of YouVol.31 高本 直 先生
P.ヒンデミット
フルート・ソナタ
2010年から3年間を過ごしたハンブルクは、ドイツ北部に位置する港湾都市で、中世の頃からハンザ同盟の中心都市として発展を遂げた歴史のある街です。北海へつながるエルベ川や、街の中心にあるアルスター湖など、水と緑に囲まれた街並みは大変美しく、居住地としても観光地としてもとても人気があります。しかし、天気が悪いことでも有名なハンブルク。特に秋から冬にかけては、曇りか雨の毎日で、なかなか太陽を見ることができません。ですので、晴れた日には皆こぞって外へ出かけ、陽の光を浴びることに精を出します。そんな日には、人も街もどこかウキウキした雰囲気が漂うのです。



それまで私は、作曲された1930年代のドイツの世相や、1934年の「ヒンデミット事件」の経緯から、どことなくモノクロで冷たく、無機質な印象をこのソナタに持っていましたが、先生の一言で突然色鮮やかに動き出し、フルートとピアノの対話や、それぞれのモティーフも、爽やかに可愛らしく、またユーモラスに感じるようになりました。ヒンデミットが言葉一つに託した曲想と、ささやかな日常の実体験が繋がったような気がしたのです。その日は上機嫌で「ハイター、ハイター!」と言いながら、ハンブルクで勉強してるんだなあと思いながら、家へ帰ったのを覚えています。
演奏をするときには、様々な角度から楽曲を分析し、楽譜に書かれた情報をできるだけ正確に読み取ることに努めますが、作曲家が楽語に込めたメッセージの大切さにあらためて気づかされた出来事でした。
楽譜の冒頭の「Heiter bewegt」の上に、先生が鉛筆で描いてくれた太陽の絵を見ると、ハンブルクで過ごした3年間の有り難く貴重な時間を思い出します。


高本 直 先生 /横浜教室 火曜日クラス 新宿教室 金・日曜日クラス
香川県高松市出身。東京音楽大学卒業、同大学院修士課程を修了後、渡独。ユーディ・メニューイン音楽財団奨学生として、ドイツ国立ハンブルク音楽演劇大学大学院において研鑽を積む。第11回びわ湖国際フルートコンクール入選。これまでにフルートを岩崎範夫、細川順三、三上明子、ハンス=ウド・ハインツマンの各氏に師事。現在、オーケストラ・トリプティークフルート奏者、ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師。

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