解説
著者であるステファン・タンヅァーは、様々なジャンルのオーケストラでの経験をもつアメリカのピッコロ奏者である。L.シェファー、J.クレル、G.マッセン等の元で研鑽を積みフルート及びピッコロにおいて修士の音楽学位を持つ。この本は 「ピッコロの基礎的フィンガリングの手引き」 と題されている事からも分かるように、ピッコロの基本運指、トリル運指、替え指、及びそれらについての注釈から成る。従来、フルートの運指に関する手引書はJ.ペテライトのものを初めとして数冊出版されてはいるが、ピッコロにだけ焦点を絞ったものは初めてではないかと思われる。その構造上フルートよりもはるかに音程を取るのが難しいピッコロにおいては、例えば変ロ音の3種類ある運指の中のブリッチャルディキーによるものと右手人差し指のものではフルートではその音程の違いはほとんど問題にならないが、非常にシビアな結果として出てきてしまうのである。つまりフルートにあっては有効でもピッコロには通用しない面もあるというフルート用の運指表を止むを得ず使ってきたピッコロ奏者には正に福音といえる本である。この本において特に圧巻なのはトリルの運指と替え指である。とりわけ常に悩みの種である高音域においてはたくさんの優れた運指が示されており、しかもその一つ一つに丁寧な注釈がついていて時には具体的な作品のどこの部分でそれを使用するかについてまでも言及している。名ピッコロ奏者の秘中の秘とも言えるこれらの替え指を我々の利用に供してくれた事はピッコロの演奏技術の更なる発展を生むものであろう。著者も序文で述べているように、この本のねらいはピッコロの運指における決定的なテキストではなくむしろ更に一層の研究や探求の出発点として考えるべきであろう。フルート以上にメーカーによる違いや同一メーカー内における個体差、また演奏やアンブシュールによって引き起こされる問題等もあり、個人が色々試していく中でこの著作を利用すれば大きな成果が得られるのではないかと考える。(解説/高久 進)ニュース
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