ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~
Memories Of YouVol.47 初田 章子 先生
Ph.ゴーベール
ファンタジー
思い入れのある曲は数多くありますが、今は、昨年天国にいかれたレイモン・ギヨー先生(1930-2025)への追悼の意をこめて、ゴーベールのファンタジーをご紹介させていただきたいと思います。
ギヨー先生は気さくでおちゃめで非常に謙虚なお人柄ながら、洗練された凄まじい技術力と、しなやかで無限の対応力を持っておられる音楽家でした。レッスンでは毎回ピアノも弾いて下さり、作曲家として少なくない数のフルート作品や音楽院の課題曲なども手がけておられました。フルート演奏のための技術的な解決方法だけでなく、音楽全体を深く学んだ上でのフレーズ作り、楽譜の意図を読み、響きの幅を最大限に使いこなすこと、全体をよく聴きながら演奏・変奏していくことなど、厳しいながらどこまでも音楽の喜びを教えて下さいました。同じ曲でもギヨー先生が演奏されると、リズムもテンポも正確無比なのに、その陰影や立体感、音の自在さがあまりにもすばらしくて、魔法のように感じられました。
ギヨー先生はバッハもベリオもニールセンも素晴らしいレッスンをして下さいましたが、ある日ゴーベールのファンタジーを持っていくと、「ゴーベールは、僕の先生(モイーズ)の、先生なんだよ!」と、本当に嬉しそうに仰って、衝撃を受けました。その表情と、幸せそうなギヨー先生の様子から、突然、それまで受けていたレッスンの中に、ゴーベールやモイーズの音楽、そして『生身の人間の交流から伝わっていく何か』が色濃く継承されている、ということが初めて強烈に感じられたのです。エスプリ、あるいは身体性をともなう音の気配、とでも言えるような音楽の扱いについて、ギヨー先生から長くレッスンを受けられたことは、私にとって何よりの宝物になりました。
恩師のレイモン・ギヨー先生と
実はゴーベールのファンタジーは、大学で白尾彰先生にレッスンをしていただいて以来、大好きな作品の一つでした。白尾先生はアンドレ・ジョネ氏の継承者の一人で、ジョネ氏もゴーベールの直弟子でした。ふり返ると、不思議なご縁でたくさんの糸がゴーベールに結びついていたのです。
渡仏した当初、パリのとあるホールのロビーに、指揮者としてのゴーベールの大きな写真が飾ってあり驚いたことがありました。ゴーベールはピアノもヴァイオリンも演奏し、作曲家、指揮者としてもパリの音楽界を支え、『完全な音楽家』と呼ばれた人でした。そのゴーベールが作曲したフルートのための《ファンタジー》は珠玉の名曲で、傑出したフルート奏者ならではのさりげない超絶技巧(!)や、楽器ごとの特性を熟知する演奏家・総合音楽家ならではの工夫がちりばめられています。また、彼は女性達から大量のファンレターをもらっていたようです。うっとりするようなロマンティックさと、こまやかな気配りに満ちた作品から、納得するところは大いにあります(彼は引くのがうまいと思います)。
ゴーベールのファンタジー、そしてそれだけでなく多くのゴーベールの作品も通して、フルートの魅力をより多くの方に味わっていただければ幸いです。
HATSUDA AKIKO初田 章子 先生 /大阪教室 日曜日クラス
京都市立堀川音楽高等学校ピアノ専攻卒業、桐朋学園大学フルート専攻卒業。パリ・エコール・ノルマル音楽院コンサーティスト課程を満場一致の首席卒業。パリ地方音楽院室内楽科、マルセイユ音楽院ピッコロ科修了。フランス国家演奏家資格取得。パリ日本文化会館主催「日本の若き才能」、小澤塾オペラ・プロジェクト等に出演。青山音楽賞、京都芸術祭毎日新聞社賞、日本クラシック音楽協会優秀指導者賞等受賞。大阪教育大学大学院芸術文化専攻修了、京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。博士論文『フィリップ・ゴーベールにおける「しなやかさ(souplesse)」の技法 ——教則本と卒業試験課題の変遷からみた一考察—— 』により博士(音楽)学位を取得。同志社女子大学学芸学部音楽学科、相愛大学・高等学校音楽科、京都市立堀川音楽高等学校、京都音楽院、ムラマツ・フルート・レッスンセンター各講師。
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京都市立芸術大学リポジトリ
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