フルート豆知識

Repair Room
  • 技術課長 伊藤史安
  • 皆さんが日頃フルートに関して何だろう? なぜ? どうして? と思っていることをお話します。

    技術課長 伊藤史安

Vol.5 G/Aトリルキー・Cisトリルキー

現在はドイツでもフレンチモデルが多く使われていますが、かなり前のドイツ系のメーカー(ハンミッヒ、メナート等)ではカバード・Eメカ付のフルートは当たり前で、G/Aトリルキー付も多かったようです。
CisトリルキーはフレンチモデルにH足部管と一緒に付いていることが多く、アメリカでよく使われています。
G/Aトリルキーは、そのキー単独でCisトリルの音を作ることが出来、Dトリルキーと一緒に使うことで、G/Aトリルキーになります。また、Cisトリルキーは、そのキー単独でCisトリルの音を作り、Dトリルキーと合わせて使うと、G/Aトリルになります。どちらも同じようなことが出来ますが、見た目にはぜんぜん違います。
下の写真はG/Aトリルキーです。
  • G/Aトリルキー
  • G/Aトリルキー

Dトリルレバーの左側に小さくレバーが付いているのがわかると思います。基本的にはDトリルレバーと一緒に押さえて、G/Aトリルを行なうためのものです。
胴部管にはDトリルの右にキーが1つ、裏Gisの左にもう1つ、2つ一緒に動きます。ですから、G/Aトリルの際には穴が3つ開いたり閉じたりするわけです。
なぜ、このオプションがあるのでしょうか?
Eメカニズムが付いていない楽器では、G/Aトリルを下記の運指でできますが、Eメカニズム付きの楽器ではできません。

運指

(James.J.Pellerite A Modern Guide To Fingerings For The Flute より引用)

他にも、いくつか替え指はありますが、きれいな音は出にくいようです。ドヴォルジャークの“新世界より”やRシュトラウスの“ツァラトストラはかく語りき”など、使う頻度は低いですが、オーケストラ奏者にはあったら便利なキーだと思います。


下の写真はCisトリルキーです。
  • Cisトリルキー
  • Cisトリルキー

Cキーの左に同じ大きさのキーが付いています。Aisレバーの上の方にもう1つのレバーがあります。単独で使うことがほとんどで、キーポストが2階建てになっているので、少々ゴチャゴチャしていますが、実際のCisの音を作る位置にトーンホールが開いていますから、Cisの音はしっかり出ます。
では、なぜ普通のCisのトーンホールがあの場所にあの大きさであるかというと、他の音を作る為のオクターブキーにもなっているためで、あえて少し上のほうに小さくして開けられているのです。その事についてはまた別の機会に取り上げます。

なぜこのオプションがあるかと言えば、答えは簡単!
親指と人差し指を一緒に動かすことは、結構難しいですよね?アメリカで特に需要が多い理由はわからないのですが、Cisトリルが出てくる曲には、ドップラー作曲・3つの小品の中の“子守唄”などがあります。しかし、Cisトリルもそれほど使う機会は多くないですね。
これらのオプションは、“先生の楽器に付いている”もしくは、“有名なプレーヤーの楽器に付いているから”ということで注文される方が多いようです。普段あまり見かけることの無いオプションですので、皆さんのご注文の際の参考になれば幸いです。