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~生誕225年企画~
フランツ・シューベルト

Franz Schubert

第4回 「しぼめる花」より、<第5、6、7ヴァリエーション>


※今回の内容は、楽譜と合わせてご覧いただくことをお薦めします。(関連楽譜はこちら

<第5ヴァリエーション>

―――第5ヴァリエーションが書き直されたのはどうしてでしょうか。

最初に書かれた音楽は単調でテクニック的に非常に難しいです。オクターヴの跳躍が上行するのはまだいいのですが、急に下行するのはフルートにはとても難しいですね。そのようなことからシューベルトは書き直したかもしれません。もしくは、ボーグナーが書き直しをお願いしたのかもしれません。

譜例1「書き直された第5ヴァリエーション」(自筆譜)

―――2オクターヴにわたる音型を演奏するには、どのような練習が効果的ですか。

モイーズのソノリテやタファネル&ゴーベールなど根気よく練習することが大切です。

―――音楽的に演奏するにはどうすればいいでしょうか。

このヴァリエーションはとても技巧的で指のテクニックなどが難しいです。これらは遅いテンポで吹いてみて、自分の演奏している音をよく聴き、徐々に速く演奏することによって音色、音程、音型が崩れていないかなど確かめながら練習してください。

―――166小節目の最後の音はアクセントでしょうか。また181小節目からはどうでしょうか。

166小節目からはおそらくディミヌエンドだと思います。何度もオリジナルの譜面を見ましたが何とも言い難い書き方で書かれています。フレーズの最後の音にアクセントが書かれるというのは、ほとんど例外ですので。

譜例2「フレーズ最後の音のアクセント」(自筆譜)

181小節目からはアクセントですね。181小節目からは、結構速さがあってその中でのアクセントですので横隔膜を使って上手くアクセントになるように試みましょう。

―――181小節と182小節の同じ音型でfpを付けるのが難しいです。

これは息の角度を上手く使わないといけません。これもゆっくりから練習し、チューナーを使っても構いませんので、よく自分の音を聴いて音程の調整をするのが大切です。顎をうまく使い、口先、アンブシュアを上手に変化させる練習をしてみましょう。

―――あと一番難しいのが187小節目ですが。

そうですね、この音型はシングル・タンギングで吹いている方がいるかもしれませんが、かなり速いのでダブル・タンギングで演奏するようにしましょう。

譜例3「187小節目はダブル・タンギングで」

―――第5ヴァリエーションのアドバイスをお願いします。

何度も申し上げますが、決して速いテンポで練習しないで「急がば回れ」。
所々ブレスをする場所がないような長いフレーズがありますが、「ここでブレスをするのが自然だな、自然な流れだな」というところを見つけてください。また、ブレスを早く取る練習も必要です。その時は肩が上がらないように心がけてみましょう。

<第6ヴァリエーション>

―――ピアノパートはどのように演奏するといいですか。

このスタッカートは弾むようなリズムで、ピアノもフルートも同じようなニュアンスで演奏したいです。

―――テンポは?

自分でこのメロディを歌ってみて、最も自然に感じるテンポを探してみてください。

―――227小節目からはディミヌエンドでしょうかアクセントでしょうか。

これはアクセントです。同じモティーフでアクセントの場所が違うと思われるかもしれませんが、これはシューベルトがわざと面白く違ったものを作ったのではないかなと思います。

―――違いを強調した方がいいということですか?

そうですね。

―――第6ヴァリエーションのポイントをお願いします。

272小節の終わりのフレーズですが、フルートの出てくる最初の音はHです。当時のフルートはオクターヴ上のHが出なかったため、下のHを書いたと考えられます。現代のフルートを持っている我々にとっては、上のHの音が演奏可能なので上のHの音からH-A-Fis-Dis-Hと下行するように演奏できます。

譜例4「1オクターヴ上のHから演奏」

<第7ヴァリエーション>

―――テンポに指示がありますが。

Allegro の本来の意味は明るく陽気に楽しげにということで、速いということとは多少違います。このヴァリエーションはマーチです。だから少し速めに歩くぐらいのテンポで演奏されるべきでしょう。

―――アーティキュレーションについて教えてください。自筆譜は319小節目のみスラーが書かれています。

シューベルトは319小節目の次の小節からも同じ動きなので、同様に演奏するべきだろうと、敢えてスラーを書かなかったとも考えられますし、もしくは320小節からは譜面の通りタンギングで始まるとも考えられます。

譜例5「319小節目のみ書かれているスラ―」(自筆譜)

例えば319小節目はスラー、320小節目はスタッカート、そして319小節目と同じ形態の321小節目はスラー、322小節目はスタッカート、323~324小節目はスラーでといった演奏の仕方もありかと思います。

―――第7ヴァリエーションのポイントをお願いします。

最後のヴァリエーションはウィンナーマーチといわれています。特徴は裏拍にアクセントがあります。

譜例6「特徴は裏拍のアクセント」

これらも特徴があるマーチですが、今はあんまりこういった強調した演奏する人は少ないですね。でもこのヴァリエーションは、明るい希望に満ちた表現が大切です。
また351小節目のpですが、このフレーズはEまでと考え、Eまでは大きく吹くといいでしょう。オリジナルの譜面では、pを書く場所がほとんどなく高音のEの下に、pと書いています。実際は下に移った2拍目からpになると思われますが、シューベルトが何かをひらめき突然351小節目の1拍目からpにしたとも考えられます。

―――最後の音の長さはたっぷりめでもいいでしょうか。

それはもう演奏家によって好きなように吹かれるべきでしょう。

―――最後に読者へメッセージをお願いします。

シューベルトの多くの作品は、最後に希望を音楽に託して明るく終わる作品が多いです。この曲はまさにそういったことがいえるのではないでしょうか。
皆さんの考えや感じ方はそれぞれ違います。これらのヴァリエーションの特徴は、皆さん一人ひとり自分の感じたように表現してみてください。
シューベルトは素晴らしい歌曲を多数作曲しましたが、器楽曲も本当に魅力的な曲を残しています。ぜひ皆さん、フルート作品だけではなく他に作曲された曲にも触れてください。例えばピアノ曲で遺作の『ピアノ・ソナタ B-dur』や『ピアノ・ソナタ A-dur』、及び連弾の『幻想曲 D940』などは大変いい曲だと思います。それから弦楽五重奏なども素晴らしい。とても人間が作曲したものとは思えぬほどの美しさがあります。

西田先生と
インタビュアー(弊社スタッフ)

そして、シューベルトと同じく30代の若さでこの世を去った世界最高峰のテナー歌手、フリッツ・ヴンダーリヒは、歌曲集『美しき水車小屋の娘』やシューマンの『詩人の恋』などCDが残されています。彼の歌は本当に素晴らしいです。他にはピアニストのディヌ・リパッティ。彼もやはり30代で亡くなり録音は多く残っていませんが、アンプロンプチュ(即興曲)を残しておりこの演奏も心に響きます。
また、39歳で亡くなったチェリストのエマヌエル・フォイアーマンが残した『アルペジョ―ネ・ソナタ』。この時代のスタジオはマイク1本で全く編集しない録音方法でしたが、超人的なテクニックを見事に披露している録音が残っています。録音そのものはそんなに状態が良くないかもしれませんが、これらの偉大な演奏家の演奏に触れて何かを掴んでみてください。

これまで全4回にわたり読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

<関連商品>

NISHIDA NAOTAKA
西田 直孝(フルート)

桐朋学園大学に入学し、吉田雅夫、斎藤秀雄の両氏に師事。卒業後、ドイツ・フライブルグ国立音楽大学に入学。オーレル・ニコレ氏に師事。同大学在学中DAAD西ドイツ政府奨学金を得る。ソリストとしてダルムシュタット現代音楽祭、グラーツ現代音楽祭などで演奏。卒業後イスラエル・チェンバー・アンサンブルの首席フルート奏者として迎えられる。その後チューリッヒにおいてアンドレ・ジョネ氏に師事。アーガウ州立教育大学講師を経て1976年帰国。
パン現代音楽コンクール1位入賞の他、ロッテルダム・ガウデアムス国際現代音楽コンクール、ロワイアン国際現代音楽コンクール、ミュンヘン国際音楽コンクール等に入賞及び入選。ソロ活動のほか、室内楽奏者としてホリガー、ヘフリガー、ロス・アンヘルス各氏等と共演。協奏曲のソリストとしてベルティーニ、ベリオ、マリナー、小澤征爾各氏等と共演。元神戸女学院大学教授。

※プロフィールは、掲載時のものとなります。