今もなお多くの人に愛されるフルーティスト、マルセル・モイーズ。
演奏家であり教育者であった彼はフルートへの愛に溢れ、その人柄と演奏は世界中の人々を魅了しました。
フランス革命期にパリ音楽院の設立に関わったドヴィエンヌから歴代の著名なフルーティスト達により古典派、ロマン派、近代へと発展し続けたフレンチ・スクールは現代、モイーズの真摯にフルートと向き合う探究心によって進歩し続けました。
その功績は多くのフルーティストによって継承され続けています。
今ではその実像に触れることはできませんが、彼が残した数々の教則本から彼のフルートへの愛情が伝わることでしょう。
今回、モイーズの教則本を「基礎教則本」「演奏・奏法について」「オリジナル練習曲」「編曲作品による練習曲」「モイーズ校訂による練習曲」に分類してご紹介します。
この機会に彼が残した教則本に触れていただき、彼と共にフルートの上達への道を歩んでみてはいかがでしょうか。


モイーズ校訂による練習曲
楽譜ID:2360

18の練習曲 ベルビギエ
18 EXERCICES OU ETUDES DE BERBIGUIER.

奏 法 スラー/トリル/アーティキュレーション
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
T.B.ベルビギエ「18の練習曲」は様々な出版社から出版されているように、フルーティストにはお馴染みの教則本ですが、モイーズの校訂版として1949年にLeduc社より出版されました。初級の終わりから中級者の練習曲で、ここでは替え指を使わずオリジナルの運指で練習すること、フレーズを大切にした息継ぎをとること等が書かれています。

楽譜ID:2382

特徴的大練習曲 ベルビギエ
GRANDES ETUDES CARACTERISTIQUES DE BERBIGUIER

奏 法 アーティキュレーション/跳躍/スラー/スタッカート/ターン/タンギング
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
T.B.ベルビギエ(1782-1838)は独学でフルート、ヴァイオリン、チェロを学び、1805年にパリ音楽院に入学し和声学を学びました。フルートの作品では教則本の他、二重奏や三重奏の作品もありレッスンで使用される頻度も高いです。この練習曲は、中級の終わり~上級者向けの練習曲で、全11曲からなる大練習曲です。5ページに及ぶ作品もあるため、分散和音、跳躍する音、音階などの技術面の他、曲の構成力でも勉強になります。冒頭にはモイーズの注釈、楽曲にはフレーズを大切にした息継ぎが書かれています。

楽譜ID:2367

フュルステナウの26の練習曲 OP.107 第1巻
26 EXERCICES,OP.107 DE FURSTENAU,1ER CAHIER

奏 法 音の発展/跳躍/アーティキュレーション/スタッカート/半音階/トリル/スラー/ターン/装飾音符
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
ドイツのフルーティストで作曲家、A.B.フュルステナウ(1792-1852)は、フルートのための作品も多数あり、華やかで技巧的な作品は演奏会でしばしば取り上げられています。この教則本は、Preludio(前奏曲)付きの練習曲で1巻と2巻の分冊で出版されました。第1巻は「♯」の調性でまとめられています。各曲の注意点や練習のアドヴァイス、フレーズを大切に考えられた息継ぎが書かれています。ロマン派の基本技術練習曲は音楽性、技術面で大変勉強になります。仏・英・独語で記載されており学習者にとってわかり易く校訂されています。

楽譜ID:2368

フュルステナウの26の練習曲 OP.107 第2巻
26 EXERCICES,OP.107 DE FURSTENAU,2E CAHIER

奏 法 音の発展/スラー/トリル/アーティキュレーション/スタッカート/半音階
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
第2巻は「♭」系の調性でまとめられており、2冊で「♯」「♭」6つの長調、短調を基本の調性として各課題に取り組める内容となっています。この教則本では、トリル、スタッカート等の課題が明確に示されているのも特徴です。難易度は「アルテス 第 3巻」に匹敵し、第1巻同様、各課題の冒頭に前奏曲があり、1つ1つの課題をクリアしながら進めていくことで、基本的な技術のさらなる向上が期待できます

楽譜ID:2384

フュルステナウの音の花束 OP.125
BOUQUET DES TONS,OP.125 DE FURSTENAU.

奏 法 音の発展/トリル/跳躍/アーティキュレーション/タンギング
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
A.B.フュルステナウの練習曲の中で最も有名な作品で、「音の花束」の愛称で親しまれています。24曲からなる練習曲は華やかで技巧的な作品のため、しばしばコンクールの課題曲にも取り上げられます。フュルステナウは旧式の9鍵のフルートを使用していたため、原曲は最低音Hの音が使われていますが、モイーズ校訂のLeduc版ではC管用になっています。

楽譜ID:2386

6つの大練習曲(フュルステナウ)
6 GRANDES ETUDES DE FURSTENAU

奏 法 音の発展/総合的な技術練習
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
フュルステナウのフルート練習曲の中でも最上級者のもので、奏法・技巧もさることながら1曲が5ページ以上にも及ぶ大練習曲です。フュルステナウは旧式の9鍵のフルートを愛用していたため、作品には最低音Hの音が使われています。モイーズの校訂版でも最低音のHをそのままに校訂されました。また、とりわけ音楽づくりやフレージングを大切にしていたモイーズは、この教則本でも息継ぎの位置が示されています。これまで修得した奏法や技巧、表現の集大成となる教則本でしょう。

楽譜ID:2381

ベーム 12の練習曲
12 ETUDES DE BOEHM

奏 法 スラー/スタッカート/トリル/シングル・タンギング/ダブル・タンギング/トリプル・タンギング/アーティキュレーション
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
Th.ベーム(1794-1881)はドイツのロマン派を代表するフルート奏者で作曲家です。また楽器製作者としてシステムの改造・改良を行い、フルート・システムの大改造によりフルート作品も発展することとなる大変重要な人物です。この練習曲もフルーティストに馴染みのある作品で、1949年にモイーズ校訂版としてLeduc社より出版されました。タファネル=ゴーベール「17の日課大練習」やモイーズ「日課練習」のような要素があり、全調性での技術練習が組み込まれています。

楽譜ID:2380

ベームによる24の奇想練習曲 OP.26
24 CAPRICES-ETUDES,OP.26 DE BOEHM

奏 法 アーティキュレーション/トリル/シングル・タンギング/ダブル・タンギング/跳躍/音の発展/オクターヴ
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
多くのフルーティストが学習している練習曲の1つで、全調24曲の中にアーティキュレーション、トリル、タンギングなどの総合的な奏法と美しい旋律で構成された練習曲です。モイーズによる息継ぎの表記、各楽曲のアドヴァイスが書かれています。ベームによるシステム改良は現代のフルートの土台となり、フルートと共に演奏技術やフルート作品も大きく発展していくことになります。

楽譜ID:2385

ススマンの24の日課練習 OP.53
24 ETUDES JOURNALIERES DE SOUSSMANN,OP53.

奏 法 アーティキュレーション/シングル・タンギング/ダブル・タンギング/装飾音符/トリル/オクターヴ/半音階/トリプル・タンギング/分散三和音
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
H.ススマン(1796-1848)はドイツ生まれのロマン派のフルーティストで作曲家です。1822年にロシア・サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場の首席奏者を務めた他、王室礼拝堂でも活躍しました。1836年に音楽総監督に就任しロシアでその生涯を終えました。ススマンの「実用教則本」の一部を抜粋した練習曲で、モイーズの注釈付きで出版され日本語訳も付いています。アルテスの3巻相当の難易度となり、「♯」「♭」全調の総合的な技術練習曲で、今も多くのフルーティストの教材として使われています。

楽譜ID:2372

ドゥメルスマンによる50の旋律的練習曲 OP.4 第1巻
50 ETUDES MELODIQUES,OP.4 DEMERSSEMAN;1

奏 法 音の発展/アーティキュレーション/総合的な技術練習
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
J.A.ドゥメルスマン(1833-1866)は11歳の若さでパリ音楽院に入学しJ-L.チュルーに師事しました。翌年、12歳でフルート科の1等賞を得ると、「フルートのサラサーテ」などと称され繊細で華麗な演奏が讃えられました。作曲家としてはフルート作品を中心に数多くの作品を残していますが、練習曲で残っているものは、「50の旋律的練習曲 Op.4」のみで貴重な練習曲です。モイーズの校訂でLeduc社より2分冊で出版されており、第1巻では、音・フレーズ・タンギング・トリル・アーティキュレーション等、総合的な技術を学ぶことができます。

楽譜ID:2373

ドゥメルスマンによる50の旋律的練習曲 OP.4 第2巻
50 ETUDES MELODIQUES,OP.4 DEMERSSEMAN;2

奏 法 音の発展/アーティキュレーション/総合的な技術練習
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
モイーズはJ.A.ドゥメルスマンの「大変奏曲”トレモロ” Op.3」や「”オベロン”の主題による大幻想曲」を自身でも演奏したりレッスンで取り上げています。美しい旋律に華やかで技巧的な作品はフルーティストの表現の幅を広げてくれます。この「旋律的練習曲」は中級者から取り組める作品で、技術練習とともに50曲のメロディは技術・奏法のみならず音楽性や表現力を身につけ、近代の作品にも活かされるでしょう。

楽譜ID:2682

40の練習曲 OP.101
40 STUDIES,OP.101 (ED.M.MOYSE)

奏 法 フィンガリング
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
L.ユーグ(1836-1913)は、トリノ大学の地理学の教授でもありフルーティスト・作曲家で、フルート作品ではヴェルディ「仮面舞踏会の主題による大協奏幻想曲 Op.5」が知られています。この練習曲は音階練習曲で♯6つ、♭5つまでの調性で構成されており、各課題曲にはモイーズによる息継ぎの箇所とその課題に合ったアーティキュレーションでの練習方法が載せられています。音階の反復練習ですがフレーズが分かり易いため基礎練習も楽しく取り組むことができます。