今もなお多くの人に愛されるフルーティスト、マルセル・モイーズ。
演奏家であり教育者であった彼はフルートへの愛に溢れ、その人柄と演奏は世界中の人々を魅了しました。
フランス革命期にパリ音楽院の設立に関わったドヴィエンヌから歴代の著名なフルーティスト達により古典派、ロマン派、近代へと発展し続けたフレンチ・スクールは現代、モイーズの真摯にフルートと向き合う探究心によって進歩し続けました。
その功績は多くのフルーティストによって継承され続けています。
今ではその実像に触れることはできませんが、彼が残した数々の教則本から彼のフルートへの愛情が伝わることでしょう。
今回、モイーズの教則本を「基礎教則本」「演奏・奏法について」「オリジナル練習曲」「編曲作品による練習曲」「モイーズ校訂による練習曲」に分類してご紹介します。
この機会に彼が残した教則本に触れていただき、彼と共にフルートの上達への道を歩んでみてはいかがでしょうか。


基礎教則本
楽譜ID:2359

フルート入門
LE DEBUTANT FLUTISTE

奏 法 音/音程/音階/分散和音
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
「ソノリテについて」の予備基礎練習で、低音域から中音域、中音域から高音域とすべての音に触れられるように考えられています。また初級者のために調号を使わず臨時記号で書かれているため調号に気を取られることなく、音づくりに集中して取り組めるよう配慮されています。奇数ページは応用練習になっていますが、学習者の呼吸状態や練習時間などに合わせて偶数ページの練習だけでも良いと書かれています。「ソノリテについて」が少し難しい方はこちらの教則本がおすすめです。初めて出会う「音」を大切にした教則本です。

楽譜ID:2371

ソノリテについて:方法と技術 日本語版 /吉田雅夫訳
DE LA SONORITE,JAPONAISE

奏 法 音/音の発展
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
モイーズ自身も美しい音とはどんな音なのかを問い続け、生涯研究を続けた音づくり。吉田雅夫氏の訳で1934年にLeduc社より出版されたものです。音づくりについて追求しており、「音色と音の同質性」「低音の柔軟性」「アタックと音の連結」「音の豊かさ」「演奏解釈における音の統制」の5項目に分けて書かれています。吉田氏が「私がフルートを手にしてから現在に至る迄、常に私の座右にあるのが此の本である。」と残しているように、多くのフルーティストが長きにわたり使い続けている1冊です。

楽譜ID:2369

ソノリテについて:方法と技術 フランス語版 (英語・ドイツ語)
DE LA SONORITE:ART ET TECHNIQUE,FRANCAIS(ENGLISH.DEUTSCH)

奏 法 音/音の発展
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
3ヶ国語(仏・英・独)で書かれており、直にモイーズの言葉使いが感じられます。内容は日本語訳と同じ、音づくりについて。モイーズは毎日変化するアンブシュアをどのように修正することが出来たのか、後のフルーティスト達に残しておきたいと思ったことから出版を決意しました。「ソノリテについて」は、他の管楽器の音づくりの参考にもされるほど貴重な教則本です。語学を勉強されている方は、こちらの教則本もお手に取ってみてはいかがでしょうか。

楽譜ID:11807

トーン・デヴェロップメント 解釈を通しての音の発展
TONE DEVELOPMENT THROUGH INTERPRETATION

奏 法 音の発展
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
モイーズは、歌手や他の楽器の演奏者から多様な表現方法を学ぶため、沢山の楽曲を聴き、素晴らしい旋律を収集していました。この教則本は、音の柔軟さや表現方法を学べるようにオペラのアリアや器楽曲の美しい旋律を選曲した全90曲が収められています。また、「Melody Book」とも呼ばれ、多くのフルーティストに親しまれている教則本です。モイーズはオペラ歌手と同じ表現や音色になるように繰り返し練習しただけでなく、いろいろな調でも練習をしました。調性を変えることで異なった音色や表現方法を習得しようと試みたようです。

楽譜ID:2363

日課練習(中・上級)
EXERCICES JOURNALIERS

奏 法 半音音階/全音音階/増五の分散和音/減七の分散和音/分散三和音/七の分散和音/三度・四度・六度・七度/分散和音/オクターヴ
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
「ソノリテについて」に次いで多くのフルーティストの日課練習に取り入れられている教則本で、半音階、スケール、分散和音を組織的に配列し、4つのグループ・26のパターンを考えました。序文に記されている順序で進めると約1ヶ月でこの教則本の全てを練習することができます。また、限られた練習時間で効率よく練習に取り組めるように緻密に計算された教則本です。これらの練習は、演奏に必要な技術練習を含んでおり大変重要な基礎練習の1つでしょう。

楽譜ID:2361

音階と分散和音:480の技術練習
GAMMES ET ARPEGES,480 EXERCICES

奏 法 長・短音階/三音・四音の分散和音/長・短・減の分散和音/短音階/七度の分散和音
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
上記「日課練習」をさらに補うために出版された音階と指使いの技術練習です。テクニックのさらなる完成を目指し、フルートの全音域の指の動き、音の均一性を追求した1冊です。タイトルのとおり480パターンの分散和音を、巻頭に書かれている番号に沿って様々な調性で練習を行うことで、バランスよく技術練習ができるよう考えられています。この練習内容については、モイーズに師事していたアンドレ・ジョネの書籍「音楽的考察」(楽譜ID:35144)に詳しく書かれており、より効果的に技術を得ることが期待できます。毎日の練習に取り入れることで技術の向上と維持につながる教則本です。

楽譜ID:2365

メカニズムと半音音階
MECANISME-CHROMATISME

奏 法 アーティキュレーション/トリプル・タンギング/分散三和音/跳躍/
レガート/短六度を含む短音階/半音音階
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
1928年に出版されたこの教則本は、モイーズが半音音階練習とフィンガリングの練習用にメカニズムをパターン化し、テクニックの向上に重点を置いたものです。半音音階やあらゆる調性をしっかり訓練することで、フレンチ・スクール作品に柔軟に対応する力が身につき、さまざまなニュアンスで表現できるように考えられた重要な1冊です。

楽譜ID:2364

練習曲と技術練習
ETUDES ET EXERCICES TECHNIQUES

奏 法 シングル・タンギング/ダブル・タンギング/トリプル・タンギング/
レガート/音の均質性
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
フルートの技術を隅々にわたり習得することを考えた練習曲です。ソノリテ(低音域や跳躍する音の均質性)、タンギング、フィンガリング(高難度な指使い)、レガートを含む内容で作られており、低音域から高音域の全音域で練習が可能で、曲頭に書かれている指示に従って演奏します。常にmf でゆっくりと演奏するように心がけるといいでしょう。より優れた技術の向上と維持のためには欠かせない練習が詰まっています。

楽譜ID:2362

アーティキュレーションの学習
ECOLE DE L’ARTICULATION

奏 法 アーティキュレーション/シングル・タンギング/ダブル・タンギング/トリプル・タンギング
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
こちらの教則本は各課題に注意点や練習方法が示されており、低音域から高音域までまんべんなく技術を習得できるように考えられています。また、巻末にはパガニーニ「常動曲」やF.ヒラー「ピアノのための練習曲」などダブル・タンギング、トリプル・タンギングの習得に必要な練習や、徐々に跳躍する音へのタンギング練習など、さらに技術を極めることができる1冊です。様々なパターンのアーティキュレーションに触れることで、フレンチ・スクール作品をはじめ、いろいろな時代の作品にも対応することができるでしょう。

楽譜ID:2370

20の技術練習と練習曲(スラー、トリル、フェルマータ)
20 EXERCICES ET ETUDES SUR LES GRANDES LIAISONS

奏 法 分散三和音/七度の分散和音/スラー/トリル/フェルマータ/半音音階/オクターヴ
難易度 初心者 初級 中級 上級 最上級
更なる技術習得のための教則本で、「1オクターヴ以上の跳躍する音のロング・スラー」「トリル」「シングル・タンギング、ダブル・タンギング」「フェルマータと滑らかさを備えたレガート」等、難度が高い日課練習となっています。ここでも均一した音を追求し、フルートで最大限のパフォーマンスができるように研究された練習内容です。モイーズの妥協をせず、真摯にフルートと向き合いながら作られた技術練習の内容に感銘を受けます。