Vol.15 紫園 香 先生

E.モリコーネ
ガブリエルのオーボエ（映画「ミッション」より）

欧米はもとより世界中（24ヶ国）で演奏してきた中で、最も印象に残っている国の一つがブラジルです。2018年秋、移民110周年記念行事としてブラジルから招聘を受け、各地でコンサートを開催いたしました。広い広い国土を巡る3週間の行程を無事に終え、サンパウロまで戻り、さらに飛行機を乗り換え撮影クルーと一路イグアスまで。エンリコ・モリコーネ作曲「ガブリエルのオーボエ」を、イグアスの滝を背に演奏・収録がおこなわれました。世界有数の瀑布のすさまじいまでのパワーと壮大さ、美しさは人智を超えるものでした。
この曲は「ミッション」という映画の主題曲でもあります。映画は実話に基づいて作られています。今から300年ほど前、スペインのイエズス会宣教師たちが、はるばるイグアスに宣教にやって来ました。しかしグアラニー族という原住民の強い抵抗に遭い、ある者は殺され、ある者は怪我をさせられ、宣教はなかなか進みませんでした。その中にガブリエルというオーボエを吹くのがとても上手な宣教師がいました。ガブリエルは意を決して、垂直に切り立ったイグアスの滝を、オーボエを背負い、裸足でよじ登ることにしました。落ちてしまったら一巻の終わりです。しかしガブリエルには原住民にどうしても伝えたい神様の愛がありました。命辛々やっとの思いでたどり着いたガブリエルは、頂上の密林でオーボエを奏でていました。その美しい音色に、頑なだった原住民の心は和らげられ溶かされ、近づいて来てくれて、最後には密林の奥に賛美の教会が建った、というお話です。映画の最後には、国や民族の間に起こる利害関係が憎しみ合いを起こし、人間同士の「自分たちさえ良ければ」という自己中心の罪が重い命題として提起されていました。しかしながら音楽は神様のもの、そして神様が音楽を通して素晴らしいことをなさる、というメッセージも鮮やかに伝わってきました。

このスピリットはバッハなどにも共通するものだと思います。
イグアスには今も、宣教師たちが原住民を教育したといわれる素晴らしい遺跡の数々が残されており、その中で演奏していると時空を超えた風が語りかけてくるようでした。
現在世界中が呻く中で、平和の大切さが一層胸に迫ります。
どうかこの曲の持つ「憎しみを超えた愛」のスピリットをご一緒に味わっていただけますように！
（YouTube映像の中に出てくる子供達は、グアラニー族の末裔です。）

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