ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
～おもひでの名曲～
Memories Of YouVol.17 新谷 しのぶ 先生
J.S.BACH
ロ短調ミサ曲 BWV232より"Domine Deus"
2002年から2007年まで私が在籍していた、中部ドイツテューリンゲン州アイゼナハの歌劇場のオーケストラは、団員が40人ほどの小規模なものでした。アイゼナハの人口も5万人と小さな街で、特に何の娯楽もない街の中で、歌劇場は人々にとって大切な場所でした。それだけにオケはオペラ、オペレッタ、ミュージカル、シンフォニーコンサート、と毎日日替わりで違う演目を少ない人数でこなさなければなりません。そして、アイゼナハは何と言ってもJ.S.バッハの生家があり、洗礼を受けた教会もある場所ですから、オケには定期的に教会でカンタータなどを演奏する仕事もあります。
そんな中、バッハのロ短調ミサ曲が演目に入ってきました。他にも並行して演目を行う中、なかなか1つの曲をしっかりと勉強する時間もなく、曲も知らないままパート譜を練習してリハーサル、本番をこなすということが習慣になっていました。しかしロ短調ミサ曲の譜面にはかなり長いフルートソロがあるのを見つけ、急いで街にある、たった1軒のCDショップに慌てて駆け込み、カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のCDを買い求めました。
まるでカルメン・ファンタジーでも奏でそうなキラキラでピカピカ、底抜けに明るく派手な音色で奏でるメロディはソプラノとテノールのデュエットも掻き消しそうな勢いです。
アイゼナハ、ゲオルグ教会にて演奏する筆者。後ろはコーラス。
この第7曲目“Domine Deus”はフレーズが長く、ブレスがこの上なく取りにくいのですが、ゴールウェイはどこでブレスを取っているのか全くわからない位、長いフレーズで吹いています。
すっかりゴールウェイの“Domine Deus”が刷り込まれ迎えた本番、私の演奏は彼の足元にも及ばなかったことは言うまでもありません。
今でも「ロ短調ミサ曲」と聞くと、私の頭に真っ先に思い浮かぶのはミサの冒頭部のドラマチックな4小節のコーラスではなく、まるでフルート協奏曲のように聴こえる第7曲目“Domine Deus”のゴールウェイのソロなのです。
SHINYA SHINOBU新谷 しのぶ 先生 ／横浜教室 火曜・水曜日クラス
都立芸術高校、東京藝術大学を卒業。ドイツマンハイム音楽大学大学院を首席で修了。同大学院、ソリストコースを修了。
プファルツ歌劇場フルート奏者を経て、2002年から2007年までテューリンゲン州立アイゼナハ歌劇場オーケストラのソロフルーティストを務める。
フルートを浅原啓子、杉浦勝彦、立川和男、小泉剛、三上明子、ジャン=ミシェール・タンギー、ロバート・ロヴァズィッチの各氏に師事。ヨーロッパ各地のセミナーにて、ジェームス・ゴールウェイ、パウル・マイゼン、オーレル・ニコレの各氏に師事。現在ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師を務める。
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