ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師による
~おもひでの名曲~
Memories Of YouVol.19 野田 博之 先生
P.A.ジュナン
ヴェニスの謝肉祭 OP.14
フルートとの出会いは中学の吹奏楽部だった。一番人気はトランペットで競争率は高い。そこで私は、名前を知っているもうひとつの楽器であるフルートを希望した。フルートの音色の美しさに魅了された私は、寝食を忘れて練習にのめり込むようになる。ジャン=ピエール・ランパルの名曲集(2枚組のレコード!)を手にしたのは、運指を覚え、ある程度曲も演奏できるようになった中学2年の頃だった。ランパルの名曲集には、「ハンガリー田園幻想曲」や「精霊の踊り」といった作品が収録されているのだが、私がもっとも魅了されたのは、ジュナンの「ヴェニスの謝肉祭」だった。シンプルで美しいメロディーが技巧的に次々と展開していく様は、まるで手品のようで、すっかり虜になったのである。

腹を括り“シングル・タンギング”でゆっくりのテンポから練習を始める。メトロノームの速度を1つずつ上げてインテンポを目指すという気の遠くなるような練習をひたすら続けるのだが手応えは全く得られない。
ご存知のように、最後のヴァリエーションは“ダブル・タンギング”を駆使して演奏される。しかし、当時の私はダブル・タンギングを知らなかった。シングル・タンギングで挑んでいたのである。手応えが得られないのも当然である。
そんなある日、とんでもない高速タンギングが突然できるようになった。ついにランパルを超えた!と有頂天になるのだが、どうも様子がおかしい。あまりにも速すぎるのである。息は続かず、一音目と二音目とで違う音を出すこともできず、楽譜は唾液でヨレヨレになる。それもそのはず、期せずして“フラッター・タンギング”ができるようになっていたのだ。
無知な私は、フラッター・タンギングで最後のヴァリエーションを演奏しようと考えるのだが、間違った方向の努力をいくら積み重ねたところで演奏できるようになる筈がない。結局、断念せざるを得なかった。
この曲は「正しい知識」と「正しい努力」の重要性を、身をもって知った思い出深い曲なのである。
後日談だが、ダブル・タンギングを知った私は、何かに取り憑かれたかのように最終ヴァリエーションを吹きまくった。今では私の十八番となっている。
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野田 博之 先生 /大阪教室 木曜日クラス
国立音楽大学卒業。吉田雅夫、宮本明恭、木下芳丸、北村憲昭、西田直孝の各氏に師事。室内楽を大橋幸夫、丸山盛三の各氏に師事。1988年国民文化祭コンクールフルート部門第1位。1995年クラシック音楽家振興会推薦コンサート等に出演。現在、ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師。アンサンブルウィル代表。オプス音楽教室主宰。西宮芸術文化協会、西宮音楽協会会員。

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