生誕100年特別企画
ジャン=ピエール・ランパル
Jean-Pierre Rampal x Denis VerroustVol.1 INTRODUCTION
ジャン=ピエール・ランパルは、2022年の1月に生誕100年を迎えました。彼は20世紀後半のフルート界に足跡を残した音楽家の一人です。卓越した才能だけでなく、フルートという楽器に、ソリストとしての高い地位を与えようとしたその意志により、不世出の偉人としての名声を確立し、現代における偉大なフルート奏者として、これまでもそしてこれからも常に評価されることでしょう。
彼は多くの演奏会において、熱狂的に迎えられ、驚くべき成功の階段を上っていきました。これが当時ジャン=ピエール・ランパルが体験し、聴衆と共有した音楽人生なのです。さらに、戦後すぐに活動を始めた彼のキャリアは、レコード産業の目覚ましい発展の恩恵を受けました。
また、彼は400枚近いオリジナルのディスクを世に出しただけでなく、約100回のラジオ放送のために演奏を行ったことも忘れてはなりません。これらの活動により、多くの録音を遺した演奏家の一人に数えられています。
このようなレジェンドの連載記事を書くにあたって、余りにも多くの可能性が考えられるため、テーマの選定は容易なことではありませんでした。例えば、レパートリーの探求、新作の初演、フルート・リサイタルの一般化、知的なプログラム構成、驚異的なキャリア、長きにわたる活動と偉大な共演者たち、ディスコグラフィー、そして彼のフルート芸術、いわゆるフルートのフレンチ・スクール等です。そこで最終的に、4つのバラエティに富んだ、それでいて、それぞれの記事において詳細なお話を提供できるテーマを選びました。
彼の経歴における主要な道筋となる出来事を俯瞰した後、以下の項目について深めていくことにしましょう。『室内楽におけるレパートリーの探求』『ランパルと日本との関係』『作曲家ポール・アルマとの共同作業』そして最後に、信じられないほど膨大で、今でも普遍的な魅力を放っている『ランパルの録音活動』です。世界中の聴衆やフルート奏者は、ランパルに対する永遠の感謝を決して忘れることはないでしょう。現代における最初のヴィルトゥオーゾ、ジャン=ピエール・ランパルは人々をフルートのとりこにした伝道師なのです。
1922年
1月7日、マルセイユにアンドレ・ロッジュロとジョゼフ・ランパルの間に生まれる
1934年
マルセイユ音楽院の教授であった父親の指導の下、フルートを始める
1938年
1941年
7月16日、ピエール・バルビゼとの共演で、プロとして初めてのリサイタル
医学の勉強を開始1942年
マルセイユでアンドレ・ジョリヴェの《5つの呪文》を演奏
1944年
3月13日、パリで初演奏会(エコールノルマル音楽院ホール、コンセール・デュ・トリプティク)
5月23日、パリ音楽院で1等賞(ガストン・クリュネルに師事)
ナチスを逃れてアメリカに亡命していたシェーンベルクの《木管五重奏曲》の非合法での録音に参加、フランス解放の際に放送される1945年
フランス国立放送管弦楽団と共演し、ジャック・イベールの《フルート協奏曲》を演奏
医学の勉強を止め、ソリストとしての活動を開始1946年
4月26日、パリにて初録音(モーツァルトの《フルート四重奏曲ニ長調KV285》をパスキエ三重奏団と)
「フランス木管五重奏団」を立ち上げる(Fl:ランパル、Ob:P. ピエルロ、Cl:J. ランスロ、Hn:R. マネン、Fg:M. アラール)
ロベール・ヴェイロン=ラクロワと初共演の演奏会
ヴィシー・グラン・カジノ管弦楽団のフルート首席に就任(1952年まで)1947年
6月7日、フランソワーズ・バクイリッスと結婚
外国への演奏旅行の開始(スイス、オーストリア、イタリア、スペイン、オランダ等)1948年
18金のルイ・ロット製フルート(No.1375)を入手、1869年にフルート製作史で最も著名な工房によって製作された楽器の中でも独特な一本で、その後10年間使い続けた伝説的な楽器
1959年よりヘインズ社(ボストン)の楽器を使用1949年
1950年
LPレコードへの録音開始、驚異的な録音活動が始まる。1970年までに、20を超える内外のレーベルと録音を行う
1952年
1953年
エラート・レーベルが創設され、約100枚のディスクを録音することとなる
ヨーロッパ圏外への初の演奏旅行(インドネシア)1954年
ザール放送とカール・リステンパルトとの活動開始(1967年まで)
ヴィヴァルディの録音に対し、シャルル・クロ・アカデミーより大賞を受賞、これ以後の録音に対しても多くの賞を受賞1955年
パリ・オペラ座管弦楽団入団、2番フルート・ソロを務める(1962年まで)
東欧(チェコスロバキア)への初訪問1956年
カナダで初の演奏会
8月14日、マントン・フェスティバルでアイザック・スターンと初共演、ただし、録音での共演は13年後、1969年(モーツァルトの四重奏曲、CBSレーベル)
インドゥジヒ・フェルトの《フルート協奏曲》をプラハのラジオ放送で初演1957年
1958年
2月14日、アメリカ・デビューにおいて成功を収める(ワシントンのアメリカ議会図書館、バッハ、ハイドン、プーランク、プロコフィエフ等を演奏)
モーツァルトの《フルートとハープのための協奏曲》をリリー・ラスキーヌのハープ、ジャン=フランソワ・パイヤールの指揮で録音(エラート・レーベル)1959年
フェルナン・ウーブラドゥによりニース夏期音楽アカデミーが創設され、1978年まで指導を行う
3月17日、ニューヨーク市公会堂で初の大規模なリサイタル1964年
1966年
ウィーン交響楽団、テオドール・グシュルバウアー指揮によりモーツァルトの協奏曲を録音(エラート)、名盤の一つに数えられる
オーストラリアへの初演奏旅行
レジオンドヌール・シュヴァリエ勲章授与1967年
11月3日、アラム・ハチャトゥリアンの《ヴァイオリン協奏曲》を作曲者の勧めによりフルート版で初演(アメリカ、トレド)
1969年
ガストン・クリュネルの後任としてパリ国立高等音楽院教授に就任(1981年まで)
ニューヨークのカーネギー・ホールで初の演奏会1973年
ハリウッド・ボウルで初の演奏会
クロード・ボランのフルートとピアノのための《ジャズ組曲》を録音(RCAレーベル、後にCBS)1974年
1976年
シャルル・クロ・アカデミーより、それまでの録音活動に対して大統領名誉大賞を受賞
1978年
カール・ニールセンの《フルート協奏曲》の録音(エラート)に対して、デンマークのレオニー・ソニング賞を受賞
1979年
CBSレーベル(後のソニー・クラシカル)の専属音楽家として契約、60枚近いディスクを録音
レジオンドヌール・オフィシエ勲章授与1980年
1982年
アイザック・スターンとムスティスラフ・ロストロポーヴィチとのトリオで初録音(ハイドンの《ロンドン・トリオ》、CBS)
中国への初演奏旅行
国家功労コマンドゥール勲章授与1984年
1987年
パリ市グランド・メダルを授与
1989年
芸術文化コマンドゥール勲章授与
自伝『音楽、わが愛』がアメリカで出版(ランダム・ハウス社、1991年にカルマン=レヴィ社よりフランス語版)1992年
クシシュトフ・ペンデレツキより《フルート協奏曲》を献呈され、ランパルのために書かれた最後の大規模な作品となる
1994年
フランス学院(アリアンス・フランセーズ)より芸術トロフィー授与
1998年
3月11日、パリにて最後の大規模リサイタル(Pf:ジョン・スティール・リッター、シャンゼリゼ劇場、モーツァルト、ベートーヴェン、ツェルニー、プーランク、フランクを演奏)
1999年
11月2日、東京文化会館大ホールにて、日本さよなら公演(Fl:クラウディ・アリマニー、Pf:ジョン・スティール・リッターと共演)
12月16、17日、パリで最後の録音(モーツァルトとホフマイスターの三重奏曲、四重奏曲、新パスキエ三重奏団、クラウディ・アリマニーと共演)
2000年
<執筆者プロフィール>


ドニ・ヴェルスト(ジャン=ピエール・ランパル協会 会長)

1958年生まれ。ピエール・ポーボン、イダ・リベラ、レジス・カル、フランシス・ギャバンにフルートを師事、ブール=ラ=レーヌ公立音楽院、サン=モール=デ=フォセ地方音楽院卒業。1980年よりフルート講師としての活動を始め、パレゾー音楽院講師を務める。教育、演奏活動、音楽学研究に従事。世界各地のフルートの国際イベントに招かれ、ジャン=ピエール・ランパル、クラウディ・アリマニー、フィリップ・ベルノルド等とソリストとして共演、録音を行う。ビヨドー、ストラヴァガンツァ等の出版社の企画に参画し、フルートやその演奏家、そのレパートリーについての多くの記事を寄稿。1991年には『ジャン=ピエール・ランパル-録音の半世紀』を出版。フランス国立放送のラジオ番組の構成にも長年携わる。
1991年より2000年まで「トラヴェルシエール・マガジン」の編集長を務め、ラ・トラヴェルシエール協会(仏フルート協会)の会長を2004年までの15年間務める。その間、1996、2000、2008年のフランス・フルート・コンヴェンションを組織する。
現在は2005年創設のジャン=ピエール・ランパル協会会長を務め、CDレーベル(プルミエ・ホリゾン)を主宰し、ランパル生誕100年の2022年秋にはランパルの伝記『普遍的なフルート』を出版予定。ユニヴァーサル、ワーナー等多くのレーベルにおいてランパルの録音の再編集に参画し、「ランパル:現代のヴィルトゥオーゾの始祖」と題して、多くのフルート・フェスティバルや音楽学校(大学)で講演を行う。
その他にもフルート界におけるレジェンド、特にマクサンス・ラリュー、オーレル・ニコレ、アラン・マリオン、ロジェ・ブルダン、ペーター=ルーカス・グラーフについての記事をフルート雑誌に寄稿し、録音の再編集に携わる。2016年より、上記各氏についての講演活動も行う。
※プロフィールは、掲載時のものとなります。
<ジャン=ピエール・ランパル協会 公式サイト>
https://www.jprampal.com/
<フランス・フルート協会主催 第6回 国際フルート・コンヴェンション 公式サイト>
https://latraversiere.fr/evenements/6eme-convention-internationale-de-la-flute/
「生誕100周年 ランパルへのオマージュ」
2022年10月26日(水)~30日(日)
ダリウス・ミヨー音楽院(エクサンプロヴァンス)
<ランパル協会 販売CD>
これらの商品はムラマツ・オンラインショップでもお取り扱いがございます。詳細は画像をクリックしてご覧ください。
※動画サービスやストリーミング配信では聴けない貴重な音源が含まれます。