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生誕100年特別企画
ジャン=ピエール・ランパル

Jean-Pierre Rampal x Denis Verroust

Vol.2 室内楽におけるレパートリーの探求

ジャン=ピエール・ランパルは自身の名声が第二次世界大戦直後より日増しに高まっていたのを実感していました。というのも、1946年に名高いヴィシー・グラン・カジノ管弦楽団訳注訳注の首席フルート奏者に就任し、在籍した7年間の内にソリストとして多くの舞台に立ったからです。またパリでは早くから管楽協会訳注訳注に参加し、数多くの室内楽演奏会へ出演しました。ランパルはラジオだけでなくレコードにも吹き込みをするようになります。

ランパルとロベール・ヴェイロン=ラクロワのデュオ

ランパルとヴェイロン=ラクロワ・デュオの録音の中でも名盤の一つ(1955年)(©AJPR)

こうして、ランパル自身の名声の高まりに合わせて、ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(Pf/Cemb)訳注訳注とのデュオもまた急速に有名になりました。

このデュオは1946年に結成され、2つの目標が設定されました。一つはフルートのレパートリーを掘り起こすこと、もう一つは、ヴァイオリンや、チェロ、ピアノと同じくらいのソロ楽器としてフルートを認知させようとすることです。ロベール・ヴェイロン=ラクロワがチェンバロとピアノを演奏できたため、古楽に関する研究や発見が進み、二人の共演はいっそう勢いのあるものとなりました。

ランパルとジョン・スティール・リッター(©AJPR)

彼らによって初めて、J.A.ハッセ、クヴァンツ、テレマン、ルクレール、バッハの息子たち、サンマルティーニ、その他の当時まだよく知られていなかった作曲家の作品が紹介され身近になりました。その一方、このデュオのために、数多くの新作が生み出されたり、ベートーヴェンの《セレナード》のフルート版や、ライネッケの《ソナタ》といった忘れられた作品を掘り起こすなど、演奏会のレパートリー不足を解消するための様々な編曲に力を注いだのです。バロック音楽に関しては既に幅広く光が当てられていたため、それほど活動に重きを置かず、1970年代半ばからジョン・スティール・リッター(Pf)訳注訳注と組んだ別のデュオによって広範なレパートリーが開拓されることとなりました。

  • ランパルとヴェイロン=ラクロワ・デュオの録音の中でも名盤の一つ(1955年)(©AJPR)

  • ランパルとジョン・スティール・リッター(©AJPR)

ロベール・ブレイ三重奏団とパリ器楽四重奏団

ピエール・キャプドヴィエルの《田園風ソナチネ》自筆譜(©AJPR)

ランパルは、フルートを出来るだけ多くの人々に認知してもらうためには、数々のアンサンブルで演奏するのが最も重要であるということにすぐ気がつきました。そのため、1948年からロベール・ブレイ(Va)とフランス・ヴェルニヤ(Hp)と一緒に「ロベール・ブレイ三重奏団」として活動します。

ドビュッシーの《ソナタ》は言うまでもありませんが、バロック時代のソナタを数多く編曲して演奏したほか、アーノルド・バックス、ラディスラス・ロホジンスキ、レオ・スミット、クロード・アリュー、マルセル・オルバンらのオリジナル作品も多数演奏しました。フルートとハープ、ないしはヴィオラのための二重奏曲を通してあらゆる可能性が試され、その結果生まれた作品には、あまり知られていませんがピエール・キャプドヴィエルの《田園風ソナチネ》が含まれます。

1949年のパリ器楽四重奏団(©AJPR)

ロベール・ブレイ三重奏団(©AJPR)

  • ピエール・キャプドヴィエルの《田園風ソナチネ》自筆譜(©AJPR)

「パリ器楽四重奏団」に関しては、ランパルを中心にジャンヌ・シャイエ=ベール(Cemb)や、当時ランパルが所属していた「ヴィシー・グラン・カジノ管弦楽団」で知り合った、ロベール・ジャンドル(Vn)、ジャン・ユショ(Vc)で構成されました。

自然な流れで彼らはバロック音楽に専念するようになり、デッカ・レーベルにヘンデルのトリオソナタをSPレコードで録音しました。また余談ですが、1950年代以前にはロジェ・ブルダン(Fl)の「パリ・フルート四重奏団」に参加し、軽音楽のレパートリーを演奏していました。

  • ロベール・ブレイ三重奏団(©AJPR)

  • 1949年のパリ器楽四重奏団(©AJPR)

2つの有名な演奏団体 その1~フランス木管五重奏団~

フランス木管五重奏団の初期の公式写真の一つ(パリ、ヴァンダム・スタジオ、1950年頃)(©AJPR)

「ロベール・ブレイ三重奏団」や「パリ器楽四重奏団」が短期間で活動が途絶えたのに対し、ピエール・ピエルロ(Ob)とランパルが共同で1945年に結成した「フランス木管五重奏団」に関しては違いました。二人を中心に、ジャック・ランスロ(Cl)、ルネ・マネム(Hn)、モーリス・アラール(Fg)が集まりました。

このアンサンブルは、作曲家ピエール・シェフェールが設立した、レジスタンス音楽活動「クラブ・デセー訳注訳注」のために、パリ音楽院(コンセルヴァトワール)出身の仲間が、1944年に秘密裏に録音を行ったことから始まります。1950年には、ポール・オンニュ(Fg)、ジルベール・クルシエ(Hn)へとメンバーの二人が替わって活動を続けます。

オワゾリール・レーベルのフランス木管五重奏団の名盤の一つ、アントン・ライヒャ(レイハ)の2つの五重奏曲のディスクジャケット(©AJPR)

彼らのレパートリーには、ミヨー、ヒンデミット、イベールにフランセをはじめ、ディッタースドルフ、ダンツィとライヒャ(レイハ)を経てオンスロウに至る古典的レパートリーにも力を入れた、最初の五重奏団でした。ジャン=ミシェル・ダマーズ、クロード・アリュー、アンリ・トマジ、マルセル・ビッチ、ジョルジュ・ミゴといった多くの作曲家がこの五重奏団のために作曲し、その作品は何度も再演されています。

また、彼らの演奏会においては二重奏から五重奏まで、さらにはフルート独奏まで含めた様々な編成の楽曲を取り上げています。例えば、管楽四重奏曲では、ミヒャエル・ハイドン、シュターミッツ、モーツァルトやロッシーニ、三重奏曲ではヨーゼフ・ハイドン、プレイエル、ヴィヴァルディにトマジ、二重奏曲はC.P.E.バッハ原注原注、といった具合です。5つの楽器と5人の奏者がそれぞれにふさわしい役割を見つけました。この五重奏団は、1950年代にオワゾリール・レーベルで録音を行いました。『アンサンブルまたはソリストとして』とレーベルの広告がまさに銘打ったように、彼らは途方も無い録音リストを打ち立て、管楽器に対する新しい人気をもたらしました。

  • フランス木管五重奏団の初期の公式写真の一つ(パリ、ヴァンダム・スタジオ、1950年頃)(©AJPR)

  • オワゾリール・レーベルのフランス木管五重奏団の名盤の一つ、アントン・ライヒャ(レイハ)の2つの五重奏曲のディスクジャケット(©AJPR)

2つの有名な演奏団体 その2~パリ・バロック・アンサンブル~

パリ・バロック・アンサンブルのメンバー(©AJPR)

パリ・バロック・アンサンブルの最初の録音(1951)(©AJPR)

1952年に結成された「パリ・バロック・アンサンブル」は、「フランス木管五重奏団」に比べるとそれほど知名度はありませんでした。その最初のレコードは、結成前年の1951年に録音され、演奏団体の名前はクレジットされていなかったものの、並外れた名人芸を披露していました。ランパルを中心にピエール・ピエルロ(Ob)、ポール・オンニュ(Fg)、ロベール・ジャンドル(Vn)、ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(Pf)が集まり、「フランス木管五重奏団」のうち3人が重複し、ランパル&ヴェイロン=ラクロワのデュオとの関係から、実に五重奏団の活動を補完する理想的なアンサンブルです。この第三のアンサンブルのおかげで、さらに別のレパートリーを開拓し広めることができ、この3団体全部合わせても7人の演奏家だけで構成されていたので、柔軟に編成を組み合わせることができました。

  • パリ・バロック・アンサンブルのメンバー(©AJPR)

  • パリ・バロック・アンサンブルの最初の録音(1951)(©AJPR)

芸術的な面では、音楽的に統一が図られていたのは言うまでもなく、それぞれのアンサンブルが成功することによって、絶えず相乗効果を生み出し、あらゆる聴衆の前に多種多様なレパートリーが繰り広げられました。

「パリ・バロック・アンサンブル」は1954年の録音原注原注、翌1955年の演奏会において、それまで埋もれて出版されていなかったヴィヴァルディの室内協奏曲に光を当て、その再評価と普及に貢献します。テレマンはまたクヴァンツ、スカルラッティ、ボワモルティエ、クープランといったヨーロッパ各地のバロック音楽の代表的作曲家と並んで、大いに敬意が表されることになりました。

1964年、ウルグアイでのコンサート(©AJPR)

1960年代のエラートの広告に掲載されたフランス木管五重奏団とパリ・バロック・アンサンブルのメンバーの名前(©AJPR)

繰り返しになりますが、「パリ・バロック・アンサンブル」の演奏会においては、旋律楽器と通奏低音の二重奏から五重奏に至るまで、様々な編成の作品が演奏され、通奏低音に加えて、バッハとモンドンヴィルのフルートとヴァイオリンのための三重奏、クヴァンツのフルートとオーボエのための三重奏、ラモー作品をフルートとファゴットのための三重奏への編曲原注原注、ヘンデルの四重奏などが挙げられます。またJ.C.バッハとモーツァルトの、チェンバロの協奏作品原注原注も定期的にプログラムに取り上げられました。

「フランス木管五重奏団」と同様、「パリ・バロック・アンサンブル」においては1970年からマクサンス・ラリューがランパルの後任となりました。オワゾリール・レーベルを引き継いで、エラート・レーベルがこれらの名演奏家とその演奏団体のあらゆる可能性を開拓して録音を行うことになります。

  • 1960年代のエラートの広告に掲載されたフランス木管五重奏団とパリ・バロック・アンサンブルのメンバーの名前(©AJPR)

  • 1964年、ウルグアイでのコンサート(©AJPR)

世界的な奏者との偉大な共演

1950年代のランパルとリリー・ラスキーヌ(©AJPR)

「パスキエ三重奏団訳注訳注」やリリー・ラスキーヌ(Hp)のデュオの共演を加えると、ランパルは、1950年代初頭から室内楽の様々な編成を活用して、計250年以上にわたる時代の膨大なレパートリーを開拓し、演奏会で披露し、録音を行いました。このような活動を行うには、並外れた芸術的、知性的、人間的な個性が必要です。ランパルはこれらの資質全てを併せ持っていたのです。さらにメンバーとして常に気の合う仲間に恵まれたことも、レパートリーの探求や、聴衆の獲得の両面で決め手となったことは明らかです。

その他の共演者、マリエル・ノールマン(Hp)、アレクサンドル・ラゴヤ(Guit)も同様に音楽ファンへ広まる上で重要な役割を果たし、さらにはアイザック・スターン(Vn)、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Vc)とのトリオや、ジュリアス・ベーカー、マクサンス・ラリュー、アラン・マリオン、アンドラーシュ・アドリヤン、ランソン・ウィルソン、工藤重典、クラウディ・アリマニーといった、多くの著名なフルート奏者とのデュオも挙げられます。

「パスキエ三重奏団」との活動ではモーツァルトやハイドンの作品、ルーセルの三重奏曲といったレパートリーに限られていましたが、「ジュリアード弦楽四重奏団訳注訳注」との活動においては、あまり知られていない作曲家である、プレイエル、ボッケリーニ、クロンマーの作品を演奏会で紹介し、特にクーラウの《五重奏曲 イ長調 Op.51》を一般的なレパートリーに押し上げました。

また「ファイン・アーツ四重奏団訳注訳注」、「東京クヮルテット訳注訳注」、「グァルネリ弦楽四重奏団訳注訳注」との共演においても多くの魅力的なプログラムを演奏しました。

  • 1950年代のランパルとリリー・ラスキーヌ(©AJPR)

このように、アンサンブルを素晴らしい演奏家達と共演し続けることにより、聴衆へのインパクトが10倍になったといっても過言ではないでしょう。というのも、ランパルがフルートのあらゆるレパートリーに関連付けられることとなったからです。ランパルに興味を持った人であれば、無数に枝分かれしていく膨大なレパートリーを目の当たりにしないわけにはいかなかったのです。





<執筆者プロフィール>
DENIS VERROUST
ドニ・ヴェルスト(ジャン=ピエール・ランパル協会 会長)

1958年生まれ。ピエール・ポーボン、イダ・リベラ、レジス・カル、フランシス・ギャバンにフルートを師事、ブール=ラ=レーヌ公立音楽院、サン=モール=デ=フォセ地方音楽院卒業。1980年よりフルート講師としての活動を始め、パレゾー音楽院講師を務める。教育、演奏活動、音楽学研究に従事。世界各地のフルートの国際イベントに招かれ、ジャン=ピエール・ランパル、クラウディ・アリマニー、フィリップ・ベルノルド等とソリストとして共演、録音を行う。ビヨドー、ストラヴァガンツァ等の出版社の企画に参画し、フルートやその演奏家、そのレパートリーについての多くの記事を寄稿。1991年には『ジャン=ピエール・ランパル-録音の半世紀』を出版。フランス国立放送のラジオ番組の構成にも長年携わる。
1991年より2000年まで「トラヴェルシエール・マガジン」の編集長を務め、ラ・トラヴェルシエール協会(仏フルート協会)の会長を2004年までの15年間務める。その間、1996、2000、2008年のフランス・フルート・コンヴェンションを組織する。
現在は2005年創設のジャン=ピエール・ランパル協会会長を務め、CDレーベル(プルミエ・ホリゾン)を主宰し、ランパル生誕100年の2022年秋にはランパルの伝記『普遍的なフルート』を出版予定。ユニヴァーサル、ワーナー等多くのレーベルにおいてランパルの録音の再編集に参画し、「ランパル:現代のヴィルトゥオーゾの始祖」と題して、多くのフルート・フェスティバルや音楽学校(大学)で講演を行う。
その他にもフルート界におけるレジェンド、特にマクサンス・ラリュー、オーレル・ニコレ、アラン・マリオン、ロジェ・ブルダン、ペーター=ルーカス・グラーフについての記事をフルート雑誌に寄稿し、録音の再編集に携わる。2016年より、上記各氏についての講演活動も行う。

※プロフィールは、掲載時のものとなります。


<ジャン=ピエール・ランパル協会 公式サイト>
https://www.jprampal.com/

<フランス・フルート協会主催 第6回 国際フルート・コンヴェンション 公式サイト>
https://latraversiere.fr/evenements/6eme-convention-internationale-de-la-flute/

「生誕100周年 ランパルへのオマージュ」
2022年10月26日(水)~30日(日)
ダリウス・ミヨー音楽院(エクサンプロヴァンス)

<ランパル協会 販売CD>
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※動画サービスやストリーミング配信では聴けない貴重な音源が含まれます。

Vol.3(準備中)