スタッフのおすすめ「書籍、その他」

このコーナーでは、ムラマツのスタッフが、長年の経験から「これは!」と思う楽譜を、その目的や内容の解説付きでご紹介します。
定期的にご紹介する楽譜を更新して行きますので、皆様の目的に応じた「使える」楽譜が見つかることと思います。

日本語で読める、18〜19世紀のフルートの概説書(Book)

フォルン・ミュージック・アトリエから新しく、バロックからロマン派までのフルートの概説書が発売されました。現代のイギリスの有名なヒストリカル・フルート奏者、レイチェル・ブラウン氏によって2002年に出版された『The Early Flute A Practical Guide』の邦訳書です。彼女はソリストとして活動中で、王立音楽院や各地で後進の指導にもあたり、ルネサンスからロマン派までの多数の音源をリリースしています。
この本には、1キー・フルートからベーム式フルートまでの歴史から楽器の手入れ方法、その時代のフルート音楽と具体的な演奏習慣、そしてバッハ、ヘンデル、モーツァルト等の名曲を取り上げてその演奏上の留意点に至るまでが詳しく記されています。この時代の人物が残した様々な歴史的資料とその内容をまとめつつも、現代の演奏家の視点も交えて書かれた良書です。図版も充実し、付録にはクヴァンツとロックストロの運指表が付属しています。翻訳者は、以前同出版社から出版された『バロック・フルート奏法』(2017年)(ID:33792)と同じく小林慎一氏です。
日本でもヒストリカル・フルート人気が年々高まる一方で、日本語で読むことができる資料はまだとても限られています。初心者向けの本とは言えませんが、トラヴェルソをお吹きになる方にはもちろんのこと、モダン・フルート吹きの方がこの時代の音楽を演奏するにあたって参考にすることもできる一冊として、広くお勧めいたします。
レイチェル・ブラウンのCDはこちらです。
(CD-ID:2980)レイチェル・ブラウン/J.J.クヴァンツ:フルート・ソナタ集(ピリオド楽器)ID:6313「C.P.E.バッハ:フルート協奏曲集」
(CD-ID:6314)レイチェル・ブラウン/HANDEL AT HOME(Period Instr.)
(CD-ID:6316)レイチェル・ブラウン/ヘンデル:7つのトリオ・ソナタ OP.5(ピリオド楽器)
(M)

刊行が待たれていた、後期バロック音楽の必読書(Book)

チャールズ・バーニー(1726〜1814)という人物をご存知ですか。イギリス人でオルガン奏者、音楽学者、とされていますが、彼を有名にしたのは2回のヨーロッパ旅行での体験を日記のようにして出版した『音楽見聞録』です。この本は後期バロックから前古典派・ロココ時代の音楽について書かれた書籍やCD解説などに数多く引用されてきました。例えば、C.P.E.バッハが鍵盤楽器を演奏する様子を、その場で見てきたかのようなライヴ感にあふれた筆致で描いた文章はよく引用されますが、これも、まさにその場でバーニーが見たことを記していたのです。長年、書名だけはよく知られていたのに、日本語の訳本が出ていなかったためにその全貌を知ることが出来なかった本です。ようやくその本が和訳され出版されました。
今回刊行されたのは<ドイツ篇>。1772年7月、フランスのサントメールを起点にしてベルギーからマンハイム、ミュンヘンを経由してウィーンへ。そこからボヘミア、ザクセンを経由してベルリン、ポツダム、そしてハンブルクから10月末にオランダを回って旅を終える約4か月の旅です。現代であってもかなり大変な行程だったと思われますが、その内容がいかに充実していたかはこの本を読むことで分かります。
また、巻末に付けられた原注、ドイツ語翻訳版の訳注、そしてドイツ語版に付けられた補遺も重要な情報源であると同時に、当時のイギリス人とドイツ人の見方の違いまでわかる興味深いものです。
今後、この時代の音楽を学びたい人の必読書になることでしょう。1770年に行ったイタリア、フランスの旅を書いた<フランス・イタリア編>と合わせてお読みください。
(SR)

またまたバーニー<フランス・イタリア篇> (Book)

前回、“後期バロック音楽の必読書”として「チャールズ・バーニー/音楽見聞録<ドイツ篇>」をご紹介しました。実は、正確に言うとこの本が書かれたのはいわゆるバロック時代ではありません。バーニーがドイツ旅行をした1772年はJ.S.バッハが亡くなって22年、ヘンデルが亡くなって13年、長生きだったテレマンも5年前の1767年に亡くなり、それに先立つ1764年、父親に連れられた8歳のW.A.モーツァルトがロンドンで人気を博した時代です。音楽の上ではバロックから古典派に移る、そしてベルリン楽派、前古典派等々、様々な形が現れた動きの多い時代でした。そんな中で、バーニーはドイツ旅行の2年前、1770年6月から同年12月まで、半年をかけてフランス、イタリアを巡っています。
大のイタリア音楽好きだったバーニーの目的地はイタリアですが、その道程で通ったフランスも含めて様々な音楽家や科学者、政治家等々と会い、音楽だけでなく、その土地や旅程、町の様子や名所、文化財などまで書き残しています。<ドイツ篇>も合わせて、この本の面白いところは、この時代を生きたバーニーが音楽だけに止まらず正にその目と耳で見聞した様々な事柄を詳しく書いているところです。作曲家や演奏家の人柄や立ち居振る舞い、その周辺の人々など音楽を演奏する立場からも見逃せない記録であり、さらにその土地の雰囲気や町から町までの馬車旅行の様子など、その社会を知るのに貴重な当時の旅行案内にもなっています。<フランス・イタリア篇>でも多大な情報源となる巻末の詳細な註と共に、<ドイツ篇>(楽譜ID:35923)と合わせて是非お読みください。
(SR)

アーノンクール・ニコラウス「古楽とは何か」(Book)

2016年3月5日にニコラウス・アーノンクールが亡くなりました。指揮者として“マエストロ”と呼ばれ、昨年末まで古楽の世界だけでなく大活躍したので、フルートの世界でもご存じの方は多いと思います。1952年にチェロ奏者としてウィーン交響楽団に入団し、団員と語らってピリオド楽器によるアンサンブル「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」を創立。以後オーケストラでの活動のほか、チェロ奏者、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、コンツェントゥス・ムジクスのリーダーとして活躍し、アムステルダムのレオンハルト、ウィーンのアーノンクールとして人気を2分してきました。アーノンクールが“マエストロ”と呼ばれるようになったのは音楽活動の主体を指揮に移し、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルといった現代の楽器を使ったオーケストラも指揮するようになってからです。ピリオド楽器やピリオド奏法の経験を、現代の楽器や奏法にも生かし、アーノンクールの個性や考え方に裏打ちされた演奏は、賛否はありましたが、現代の楽器を演奏する数多くの音楽家たちにも大きな影響を与えました。しかし方法論というものは時が経つにつれて形骸化してしまい、表面的な真似事になってしまいがちです。「ノンヴィブラート、強いアクセント、短いアーティキュレーションがピリオド奏法だ」と言い切ってしまうのは論外としても。今ここでその原典に立ち返って根本を見直す時期ではないでしょうか。
「古楽とは何か –言葉としての音楽」(音楽之友社)は1982年に出版され1997年に翻訳された本で、アーノンクールが1954年以降に書きためてきた論文などをまとめたものです。「音楽と解釈への基本的考察」「楽器と言葉」「ヨーロッパのバロック音楽とモーツァルト」の3章に分けられた本書は、音楽の捉え方、考え方とその問題点、楽器と表現そしてアーノンクールの主張の中核をなす音楽に“話す”という表現を獲得すること、そして具体的なそれぞれの音楽に関する問題を論じた、刺激的で触発される内容です。ここに書かれていることはアーノンクールの主張ですし、全てではありませんが、半世紀以上も前からこのようなことを考え、実践をもって現代の音楽演奏に大きな影響を与えてきたことを考えれば、これから音楽を実践する人にとっての必読書のひとつと言ってもいいと思います。
この本を読んで興味を持たれた方は、さらに具体的な内容まで踏み込んだアーノンクール著の「音楽は対話である」(アカデミア・ミュージック)(商品ID:32833)を、またアーノンクールやウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの活動はどんなものだったかを知りたくなった方には、モーニカ・メルトルが行ったアーノンクールへの取材をもとに書いた文章と、アンサンブル・ウィーン・ベルリンのファゴット奏者であっただけでなく、コンツェントゥス・ムジクスでのバロック・ファゴットの名手でもあったミラン・トゥルコヴィッチの文章で構成された「アーノンクールとコンツェントゥス・ムジクス –世界一風変わりなウィーン人たち」(アルファベータ)を読んでみることをお薦めします。そしてもちろん数多く残されたアーノンクールの演奏を聴いてみることも。
(SR)

バッハ四兄弟(Book)

18世紀に「バッハ」といえば、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのことではなく、次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハのことだったといいます。その後、ブラームスやシュピッタらの活動があり、バッハ全集の楽譜も刊行され、現代ではバッハといえばヨハン・ゼバスティアン。一時、息子たちのことは忘れられていました。
しかし、最近ではバロックから古典派の音楽への架け橋となった「前古典派」「多感様式」「音楽における疾風怒濤」などがクローズ・アップされると共に、その時代の中心的存在だったバッハの息子達の音楽に再び目がむけられるようになってきました。その楽譜を見、聴いてみると彼らの音楽は、それまでの時代とは異なった独創性を持ち、場合によっては時代を飛び越えたような近代性を感じさせる作品まであります。
著者の久保田慶一氏は長年、バッハの息子たち、特にカール・フィリップ・エマヌエルの研究を続けて来られた方です。名著「バッハの息子たち」の執筆から30年近く経った今、世界の最新の研究の成果を盛り込み、具体的な音楽の実例を引きながら、読みやすくまとめられたのが、この「バッハの四兄弟」です。
バロックから古典派へはフルート音楽の黄金期でもあり、数多くのフルート作品が残っています。それらの作品を演奏するときに、一度は目を通したい必読書としてお薦めします。(SR)

刊行が待たれていた、後期バロック音楽の必読書・そのB 今度はマッテゾン!(Book)

“後期バロック音楽の必読書”として、これまでにチャールズ・バーニーの「音楽見聞録・ドイツ篇」(楽譜 ID:35923)と「音楽見聞録・フランス・イタリア篇」(楽譜 ID:36016)の2冊をご紹介してきましたが、今度はついにマッテゾンです。
ヨハン・マッテゾンはバロック時代の後期にハンブルクで活躍した作曲家、オペラ歌手、理論家、編集者、外交官…といった何でもござれのマルチプレイヤーでしたが、今では作曲家・理論家としてその名が知られ、特に著した多くの著書、中でも「完全なる宮廷楽長」と「新設のオルケストラ」の2冊はよく知られています。数々の書籍や論文から、バロック時代を扱った講座など様々な重要な場面で引用されていながら、以前ご紹介したバーニーの「音楽見聞録」同様、一部の抄訳をのぞいて和訳がされなかったために、ごく一部の研究者しか読めなかった「新設のオルケストラ」が、『新しく開かれたオーケストラ』と書名も新たに日本語で出版されました。この書が日本で知られるようになってから、実に半世紀以上が経過しています。快挙!です。
現代ならともかくも、バロック時代にあってすでに「音楽の頽廃とその原因について」と題された序章に続き、第1部は“呼吸法”として数比による音程と記号、第2部の“作曲法”とされた和声や様式も大変興味深いところですが、何と言っても第3部の“判断法”は落とせません。「イタリア・フランス・イギリス・ドイツの音楽の違いについて」「音楽の調について」「楽器について」は、当時のお国ぶりによる音楽の違い、それぞれの調性はどんな性格を持っているかという調性格論、そして当時の楽器について説明と意見が記され、様々な場面で引き合いに出されてきました。
後期バロック音楽を演奏しようという方はもちろん、興味を持って聴いておられる方の必読書でもあります。
(SR)

フルートをもっと好きになるために (Book)

本番で緊張してしまって上手く吹けない…。ステージ上で頭が真っ白…。本番が憂鬱…。 このような経験はありませんか?
本番で実力を発揮するためには、演奏技術だけではなく心理面でも練習の積み重ねが必要です。
今回ご紹介する「もっと音楽が好きになるこころのトレーニング」では、練習方法を《しくみ解説編》《5つの基本スキル編》《実践編》の3つの構成で、図や表を交えながら初心者にもわかりやすく解説されています。イメージトレーニングの方法や緊張や注意力のコントロールの仕方、更に本番後の成功と失敗の考え方まで、普段なかなか学ぶことのできない重要な項目が満載です。
A5サイズのコンパクトな本なのでお守り代わりに持ち歩いていつでも見返せるのも魅力の一つです。本番を楽しいものとするために、そしてフルートをもっと好きになるためにぜひ活用してみてください。
(HS)

新しくなったクヴァンツのフルート奏法(Book)

バロック音楽の演奏法を勉強しようというときに必ず引き合いに出されるのがJ.J.クヴァンツの「フルート奏法」です。バロック時代の末頃にドイツで活躍したクヴァンツはフルートの名手であり、作曲家であり、当時のドイツの名君でフルートの名手でもあったフリードリヒ大王のフルートの先生でもありました。大王の先生ですから、当然給料も破格で、同じ宮廷で楽師を務めていたC.P.E.バッハの7倍近くもらっていたこともあるようで、これではエマヌエルも怒る(!?)かもしれません。
そんなクヴァンツが1752年に著した「フルート奏法(試論)」が、昔から名著と言われバロック音楽を勉強する必携書とされてきたのは、単にフルートの演奏法を語っただけの本ではないからです。クヴァンツはまず“良い音楽家になるための心得”を序章で述べています。そして第1章から第10章まででフルートの楽器のことや演奏法のことを述べた後、第11章は“良い歌唱法、良い器楽演奏全般”、第12章の“アレグロの奏法”、以下“装飾法”“アダージョの奏法”等々が語られ、その後に多くの紙数を使って、“伴奏者の義務”、“音楽家と音楽作品論”と続きます。これらの中には弦楽器奏者や鍵盤楽器奏者への記述も多く、当時の様々な演奏上のあり方や問題点が語られています。つまりこの本は「フルート奏法」とされてはいますが、その対象は弦楽器奏者や鍵盤楽器奏者にまで及び、あらゆる楽器に携わる人への啓発書にもなっているのです。この本は、後期バロック時代のベルリン周辺のドイツ音楽を知る上で大変貴重な資料と言うことができます。
さらに、この改訂版の特長は、本文について旧版の誤訳の修正や読みやすい和訳への変更にとどまらず、新たに訳者による「クヴァンツを巡る音楽環境について」と題する、当時のクヴァンツの周辺を語った70ページあまりの解説が付いていることです。この解説はこの本を読むためだけでなく、この時代の音楽状況を知る上で大変有益なものになっています。
ドイツ後期バロック時代の音楽がお好きなあなた!たとえ旧版をお持ちであっても、さらに得るところの大きい本書を是非手にとって読んでみて下さい。このように書いている筆者も買い直したひとりで、買い直したことに大変満足しています。
(SR)

言葉の本来の意味を知ることで作曲家の意図する音楽がよりわかるかも!?(Book)

音楽用語はイタリア語が多いですが、イタリアの日常では実際にはどのように使われているのか気になられたことはございませんか?例えば、音楽用語では“快速に、急速に、活発に”を意味する“Allegro”ですが、イタリア人は“陽気に、楽しい、明るい”といった意味で使用する言葉とのこと。えっ?速く!という意味ではないの?と思ってしまいますが、なるほど!!ウキウキ!ワクワク!とした気持ちが自然と音楽の速度を速くさせる!そのようなイメージから“快速に”という意味につながると考えると理解できます。
また、音楽用語では“生き生きと、活気をもって、元気に”という意味でほぼ同義語として扱われている“Animato”、“Con anima”の違いや、“Pesante(重々しく)”、“Grave(荘重に、重々しく)”は似ているような意味ですが、では実際にはどちらの方が重いのか?など、他にも興味深い内容がいっぱい!語源であるラテン語の意味やコラムにはイタリアの歴史的な背景も載っているので楽しみながらイタリア語が学べます。言葉の本来の意味を理解すると、譜読みもさらに楽しく、表現の幅も広がるかも!?
イタリア人の感覚、味わってみませんか?プレゼントにもおすすめです。
(NS)

フルートの神様 マルセル・モイーズの想い出(Book)

「ソノリテについて」をはじめ多くの教本を著し、「フルートの神様」と呼ばれるマルセル・モイーズですが、1984年に亡くなってからもう25年以上がたち、若いフルーティストには実際どんな人だったのか、ご存じない方が多いことでしょう。 この本は、モイーズの弟子であった著者が師の思い出を綴ったもので、写真も多く掲載され、人柄がしのばれる数々のプライベートのエピソードはもちろん、レッスンの様子も垣間見られるものです。
たとえ全部通して読まなくても
“Without the heart, the brain cannot produce music.(心がこもらなくては、頭だけでは音楽は生み出せません)”
“Music is the language of love.(音楽は愛の言葉なのです)”
といったモイーズの言葉を拾い読みするだけでも、彼の音楽に対する真摯な姿勢が伝わります。
英語の本ですが、高校生くらいの英語力で十分読める内容ですので、フルートと音楽を愛するすべての人にぜひ読んで頂きたいと思います。(T)