ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師の野崎和宏先生に執筆していただきました。

※この記事は2009年に執筆していただいたものです。

第5回

Giuseppe GARIBOLDI : Flute Duos op.145

今回は、ガリボルディの2本のフルートのための二重奏曲集 op.145をご紹介します。

作曲者ジュゼッペ・ガリボルディ(1833, 3, 17〜1905 ,4, 12)は、イタリアのMacerataで生まれ、Castelraimondoで没した生粋のイタリア人ですが、同じイタリアの名手ケーラーが、ウィーン、そして最後には、サンクト・ペテルスブルグに出て活躍したのに対し、ガリボルディは、母国でフルートを勉強した後若くしてフランスに渡り、その生涯の長い時期をパリで過ごしました。その時代、パリではDorus , Altes , Taffanelなど蒼々たる名手が華々しく活躍しており、その影に隠れるかたちで、ガリボルディのフルート奏者としての演奏に関する記録はあまり残されていませんが、作曲家としては、この二重奏曲をはじめフルート用の作品が、パリのLeducやLemoine等から数多く出版されています。
演奏会用の楽曲の他に、教則本, Exercices, Etudesなどの教育作品の多さが目立ち、現在も多くの人々の勉強に役立っています。教則本(Methode complete op.128)は、旧式の楽器を対象に書かれたTulou(1835年)等のMethodeと、新しいベーム式の楽器のみを対象としたDorus, Altes(1905年), Taffanel-Gaubert(1923年)等のものとの間にあって、Gariboldi自身も使用した(ルイ・ロット1857年製No.400)ベーム式を基本に、おそらく彼もイタリアでGiuseppe D’Aloeに師事して学び始めた頃に親しみ、メソード出版の頃も旧式の楽器を吹いている人にも配慮して、旧式フルートにも対応出来るように8キーの楽器用の運指表も載せています。現在入手可能な教本、エチュードを挙げて見ましょう。

★教則本

 * Methode de flute op.128
 * Methode elementaire

★基本練習

 * Exercices journaliers op.89(日課練習曲 作品89)
 * Etudes complete des gammes op.127(スケール練習曲 作品127)

★練習曲集(難易度順)

 1) 58 Petits Exercices
 2) 30 Etudes Faciles et Progressives
 3) Etudes mignonnes op.131
 4) 20 Caprices etudes faciles et progressifs op.333
 5) 20 Petites Etudes op.132
 6) 20 Etudes chantantes op.88
 7) 15 Etudes (aux amateurs)
 8) L’Indispensable - Caprice Etude op.48
 9) Grandes Etudes de style op.134
 10) L’Art de preludes op.149

 さて、いよいよ本題の二重奏曲集です。  第1番から6番までの6曲を1セットにして、それを6セット、計36曲から成り、それぞれaからfまでのアルファベットとタイトルが付けられ、次のように2冊に分けて出版されています。

第1巻

 a) 6 Duos faciles (6つのやさしいデュオ)
 b) 6 Petits Duos (6つの可愛らしいデュオ)
 c) 6 Duos melidiques (6つの旋律的デュオ)

第2巻

 d) 6 Duos de genre (6つの様式のデュオ)
 e) 6 Duos brillants (6つの華やかなデュオ)
 f) 6 Grands Duos (6つのグランド・デュオ)

それぞれのタイトルから想像出来る通り、aからfに進むにつれて漸次難度が上がって行くように作られ、先に書いたガリボルディの何冊ものエチュードと同じような音楽とテクニック修得のための音形を網羅して、まるでガリボルディ自身の初級から中級に入る程度の何冊かのエチュードを二重奏バージョンにしてまとめたような内容になっています。そして、なんと最後の曲、fの6番の中間部には譜例1、op.88のエチュードの6番譜例2がそのまま顔を出します。
各曲は、イタリア人ならではの ”歌” にあふれ、時としてドキリとさせられるその和声新行や転調は、やはり理詰めではないイタリア人気質のおおらかさでしょうか?
曲の難易度を先に書いたエチュードと比較すると、二重奏の第1巻が、エチュードの2)から5)のop.132くらいまで、2巻が、エチュードの6)op.88から6)くらいまでに相当します。
つまり、この二重奏曲集をやると、アンサンブルを楽しみながら知らず知らずのうちに、多くの人達の必須練習曲となっているガリボルディのop.131, 132, 88.を含む数冊分の勉強が出来、しかもそのうえに和声の動きや転調もより明確に感じられ、音楽的なアンサンブルの能力(音程, 合図, 音量のバランス等)までも身につく優れものというわけです。
エチュードの替りに、あるいは中級者以上の方の初見の訓練に、友達どうしや先生と生徒でぜひこの二重奏曲を楽しんでみてはいかがでしょうか?
  • 譜例1

    OP.88 No.6 冒頭

  • 譜例2

    OP.145 f No.6 (54ページ 下2行)

野崎和宏

桐朋学園大学卒業。林りり子、小出信也の両氏に師事。同大学卒業後、渡欧。C.ラルデ氏に師事。パリ・エコール・ノルマル音楽院ソリストコースを首席で卒業。特別賞を受ける。マリア・カナルス国際コンクールで名誉ディプロム賞を受賞。
1986年帰国。現在、尚美ミュージックカレッジ専門学校講師。ソロ、室内楽の分野で、幅広い演奏活動を行っている。ムラマツ・フルート・レッスンセンター講師。