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ドビュッシー没後100年特別企画〜シランクス〜


第3回 ドビュッシィズム、その斬新な音楽の正体、そしてシランクスへの潜入
アナリーズのための予備知識、ドビュッシーの音楽の正体
Harmony 和声…倍音域協和概念と転調の拡大

ドビュッシーの和声では、それまでの音楽に比べ、協和音概念の拡張というべき事が起きている。倍音関係において、根音に対する倍音列は安定した協和音関係といえるから、極論すれば[譜例1]のように属七(一応、不協和音)、属九(長九、不協和音)の和音等、全て倍音的には協和音として扱えるという概念。一方、長三和音に根音の6度上のAを足したものを付加6度といい、これの多用で、より自由に転調がなされる。

Faune, Pan, Nymphe, Syrinx, Shawm …

長調、短調の他に教会旋法、五音音階、七音音階、全音音階、クロマティックを自在に使う。長調、短調は24種類あるので24通りの移調の可能性が有るが、これに対してクロマティックは1種類、全音音階は2種類、といった様に、これらは移調(移高)の可能性が限られている。これをメシアンはLes modes à transpositions limitées(移調の限られた旋法)と呼ぶが、真の意味での根音を持たず、より連結が自由に行われる。一方、同じフレーズが2度目に出てくる場合、必ずどこかが変化するのも特徴。

牧神が吹くフルートの夢

フレージングやモチーフは、必ずしも拍子の枠に収まらず、実質的な変拍子化が行われ、小節線は、演奏のための目印程度になっている場合が多い。

ヴァンサン・ダンディ
(1913年)

ドビュッシーの友人、ヴァンサン・ダンディの「作曲法講座」からパリ音楽院で受け継がれてきたアナリーズ上の常識として、男性的リズムと女性的リズムという概念がある。この女性的リズムが多いのも特徴。説明は省くが、この女性的リズムと、拍節からの解放が連動する。拍節に起因するアクセント、「アクサン・トニック」(AT)と、表現としてリズム上に現れるアクセント、「アクサン・エスプレッシフ」(以後AE)、そしてそれを作り出す要素としてのアナクルーズとデジナンスが重要な要素。アナクルーズとは小節線の前に置かれた1〜数音で構成される前置音あるいは導入音で、緊張感を高める性格のもの。デジナンスはその逆。
非合理的なリズムの使用とは、例えば連符であれば7、9、11連符、3拍子の中に5連符を入れる等。また、連符の途中に装飾音を入れて、不均等であいまいな音価を作る。

シランクスへの前奏曲

特に特徴的なのは、小さいモチーフに付いたクレッシェンドがそのモチーフ共々繰り返される使い方で、これは聴く人の心を震わせる効果を発揮する。実はドビュッシーの作品ではmf が少なく、ピアノ曲を含む室内楽曲では、私はmp を見たことがない。一方、più ppiù fp marqué がよく使われる。più pp < pp < più p < p < p marqué <--< mf < f < più f < ff < sff というような関係。

その前に、ひとつの仮説(ほぼ確信)

ドビュッシーは、モンマルトルのカフェ「黒猫」によく通っていた。ここは、文人、画家、オカルトマニアらが集まり、世紀末のデカダン(décadent 退廃的で、既存の価値観、道徳観に反する事を唱える傾向)の煙渦巻くカフェで、ここでの知人、劇作家のモーリス・ヴォケールの紹介で、文人、ガブリエル・ムーレイと知り合ったらしく、その後長く親交を深める事になる。シランクスは、ムーレイのプシュケ(フランス語読みでプシシェ)という、ギリシャ神話のエロスとプシュケの話を題材にした詩劇(poém dramatique)の音楽として書かれ、第3幕で演奏される。

その前に、ひとつの仮説(ほぼ確信)
アーサー・ラッカムによる
「アッシャー家の崩壊」の挿絵

一方、ドビュッシーは、1908年からエドガー・アラン・ポーの恐怖小説「アッシャー家の崩壊」を題材にしたオペラを書き始め、次第にのめりこんでいく。このオペラで目指したのは、強い恐怖を表す音色。これが、かなりの難題だったようで、苦悩し、頭の中は常に「アッシャー家の崩壊」で溢れていたが結局未完に終わる。ドビュッシーのソルフェージュの先生ラヴィニャックは、ワーグナー作品をドビュッシーに教えた。ワーグナーでは、特定の登場人物、特定のシーンにあてがわれた旋律を「ライトモチーフ」といい、「アッシャー家の崩壊」でもライトモチーフ相当のものが存在し、この時期以降のドビュッシー作品には、変形した形でこれらのライトモチーフがしばしば現れる。

その前に、ひとつの仮説(ほぼ確信)

アナリーズにおいては、短い物から長い物まで、まとまった一つの部分をペリオド(période)として扱うが、ここからはこの言葉を使わせてもらう。

8小節までが最初のペリオド、ペリオド1で、最初の2小節はテーマの提示であり3小節から5小節の2拍目までがテーマの展開、3拍目で転調。ペリオド2は、9小節目から14小節目2拍目まで、ペリオド3は14小節目3拍目から19小節目2拍目まで、ペリオド4は19小節目3拍目から25小節目2拍目まで、ペリオド5は25小節目3拍目から31小節目1拍目まで、ペリオド6が2拍目から最後まで。便宜上この様な区切りで話をする。

メロディーを主体に見ていこう。
調性は一応 b-moll (変ロ短調)。前出のソルフェージュの先生ラヴィニャックは、調性の持つ性格を研究した人でもあり、ドビュッシーもその影響を受けた。1895年の著書「音楽と音楽家」で b-moll の特性は「神秘、弔い」。実際には、シランクスでは半分以上の部分が全音音階、5音、教会旋法等で占められており、これらはもちろん dur でも moll でもないので堂々と「b-moll !!」とはいえない。特にテーマは全音音階(一部教会旋法風、正確にはメシアン分類の第4旋法)なので、24調性とは関係無い[譜例2]。性格上の b-moll と考えた方が良い。ただ、b-moll の楽譜として調性を定め、Bから始まる全音音階のテーマによって、Bを主音(根音)として確定している。

ペリオド1の冒頭のテーマ(1、2小節)にはリズムの特殊性が見られる。そこで前出の「アッシャー家の崩壊」だ。ドビュッシー自身の手による、原作とはやや違う台本の内容は、主人公のマデラインと双生児の兄妹のロデリックとの近親相姦、生き埋め殺人、亡霊といった要素が絡み合う作品。[譜例3]は主人公のマデラインのライトモチーフ。冒頭のテーマのもう一つの要素は、第2オクターヴの主音B(つまり1次倍音)から下行し、1音だけ基音(Des)にタッチして主音Bに戻るという事。つまりドビュッシー的には本来のフルートの音色ではない、おそらくオクターヴのユニゾンに近い音のイメージが脳裏に在ったのではないか。

ペリオド2ではメロディーは、ほぼ基音域で奏される。10小節3拍目からの AE を伴った明るい旋法(5音音階、ここではピアノの黒鍵に相当)のモチーフが、2回目は縮小変形され、13小節にはA、Es、A、Esの音列による3全音(トライ・トーン、全音程3つ分の音程間隔、倍音域において強い不協和音を効率よく作り出す)にクロマティックの響きをぶつけた、この曲の中で最も強い不協和音の響きを作り出すが、これはマデラインが歌う「幽霊宮殿のアリア」からの派生。ペリオド3では、「崩壊の主題」と呼ばれる、生き埋めにされたマデラインがよみがえりロデリックの部屋のドアを叩くライトモチーフが、ピアノのための前奏曲集 第2集の第10曲「カノープ」に転用され、そこで装飾音を付加されて AE が発生したものを、さらに断片化して使っている様だ[譜例4]。
この付加された装飾音は、さらにデクレッシェンドが付いてその存在を強調し、モチーフの終点を、拍節を超えた所に持っていく事でデジナンスを作り出す。ちなみに11小節3拍2音目からの3つの16分音符、12小節目最後の16分音符の3連符、14小節目3拍目の8分音符2つがアナクルーズ。ペリオド2、11小節目での16分音符の装飾音、12小節目の32分音符の装飾音、ペリオド3、15小節の3連符の装飾音は AE を生み出している。これら、音符の付加による非合理的リズムは、結果的に不協和な響きを一瞬、強調する事にもなる。そうすると解決しようとする働きがやや強く生じるが、解決先は、ペリオド2では、主音の B。ペリオド3では Es で、こちらは音列としては、装飾音の Ges から4つの音のクロマティックだが、ここには AE からの短いデジナンスが発生している。ペリオド4は Ges-dur の新しいモチーフから始まる。このメロディーは、曲中で最もドビュッシー的「歌」の性格を持つが、1次倍音は一瞬の Es と F だけで、とにかく基音域に潜りたがる。フレーズの「止め」を B(21小節3拍)とする半終止的な処理から、3拍分の和音変化をクッションにして、結局 B に終止する。そしてトレモロからの B への解決を1回目サブドミナント[Es]→トニック[B]、2回目ドミナント[F]→トニック[B]の性格を持たせた和声進行の緊張感をバネに、みごとに少しずつ持ち上げて、オクターヴ上の、テーマの開始音程に辿り着く。ペリオド5はテーマの再現。ドビュッシーは同じフレーズが再現しても決して同じ形で使う事がない。冒頭1小節目の、テーマのフレーズが曲中9回あるが、見事に必ず変形している。テーマと合わせると全小節数35小節中14小節を占める。このペリオドの最後2小節もテーマの変奏だが、テーマのリズムはここで3連符化され、各音が均等な力を持つことにより、もう一つの全音音階、H主音の全音音階の存在が浮かび上がる[譜例5]。そして最後のペリオド6では、ペリオド3の3 連符が再現するが、29、30小節での2つの全音音階の共存から31小節でH主音の全音音階への移行が始まり、32小節で完全にH主音の全音音階となり、曲を終える。

拍子に関して
簡単な説明に留める。内的には、変拍子だが見事なくらい変拍子感は薄い。
4、5小節は、フレーズが2、1、2拍の構成、つまり2/4、1/4、2/4の対称配置プラス1/4拍子。10小節から12小節までは2/4、4/4、3/4拍子。22小節から25小節までは4/4、2/4、2/4、3/4拍子。25小節3拍目からのテーマの再現は、4/4、2/4、4/4拍子の対称配置で2拍子系に変化、30小節は、2/4拍子だがデジナンスにより次の1拍分と合体して3/4拍子化し、31小節からは3/4、3/4、3/4、2/4、3/4と、ほぼ3拍子系に戻る。

次回はシランクスの楽譜の謎解きと、演奏の勇気を語りたい。そのために、さらに深く潜入する。

楽譜の紹介
ドビュッシー/シランクス
楽譜ID : 20760

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ペリオド1 初め〜8小節 テーマの提示、展開【アッシャー家の崩壊】
ペリオド2 9小節〜14小節2拍目 ほぼ基音域によるメロディー、3全音とクロマティックによる強い不協和音【幽霊宮殿のアリア】
ペリオド3 14小節3拍目〜19小節2拍目 【崩壊の主題】【前奏曲 第2集カノープ】の3連符モチーフ
ペリオド4 19小節3拍目〜25小節目2拍目 新しいモチーフ(ドビュッシー的『歌』)、テーマの開始音程への移行
ペリオド5 25小節目3拍目〜31小節目1拍目 テーマの再現、テーマのリズムの変奏
ペリオド6 31小節2拍目〜最後 H主音の全音音階への終止へ向かう移行、終曲

※今回の内容は、楽譜と合わせてご覧いただくことをお薦めします。


加藤 元章

桐朋学園を経てパリ国立高等音楽院入学、同音楽院を一等賞で卒業。ブダペスト、プラハの春国際コンクール入賞、アンコーナ、マリア・カナルス、ランパル国際コンクールで2位、マディラ国際フルートコンクール優勝。以来国際的に活躍。2001年、日本人フルーティストとして初めてウィーン楽友協会ブラームス・ザールでのリサイタルを行う。CDは”プレミアム・セレクション”と”アート・オブ・エクササイズ”シリーズ等16タイトルをリリース、「現代作品集T”夜は白と黒で”」は文化庁芸術作品賞を受賞。2005年のイサン・ユンのフルート協奏曲の韓国初演は、韓国KBS MediaからDVDがリリースされている。

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