C.シャミナード コンチェルティーノ 作品107

アナリーゼと演奏の
ワンポイント・アドバイス

C.シャミナード コンチェルティーノ 作品107

アナリーゼと演奏の
ワンポイント・アドバイス

C.シャミナード コンチェルティーノ 作品107

アナリーゼと演奏の
ワンポイント・アドバイス

シャミナードの作曲上の特徴

和声

特徴的なのはMarche harmonique(マルシュ・アルモニク)の多用。マルシュ・アルモニクは「和音の反復進行」の事だが非常に効果的に使われている。転調ではクロマティック転調とエンハーモニック転調を組み合わせる手法が多く見られる。

メロディー

コンチェルティーノ、星のセレナードだけでなく歌曲やピアノ曲でもフレーズのつなぎにクロマティックを使ったり、メロディー自体がクロマティックで構成される場合も多い。フォーレの回で説明したエリジオンの使用も多い。

記譜の問題点

パリ音楽院内で試験を受ける事も無く世の中に出たためか記譜の大原則からは少し外れた「誰でも理解できるがかなり自由な記譜」になっている作品がある。対談でのフュゼーの書き方等がその例。

この時代のフランスでドビュッシーの影響は大きく、記譜においてはドビュッシー以後にニュアンス等をフランス語で表記する事が増える。フォーレのファンタジーではイタリア語のみの表記だがシャミナードでは少しフランス語表記が始まっている。コンチェルティーノではフルートパートの4小節目にles triolets sans rigueurとカデンツァがフランス語表記でCadence(カダンス)になっている。1910年頃の作品、星のセレナードではフルートパートでSans respirer、ピアノパートでTrès peu arpégé、いずれも演奏方法に関する注釈に使われている。意味はこちら

■フルート名曲♪研究所 | 第2回Cécile Chaminade-2 | Fl.加藤元章 生野実穂 Pf.野間春美 津田大介
※YouTubeの概要欄に曲の解説があります。
・Concertino Op.107/コンチェルティーノ作品107/ 商品ID:9613
・Suite de Trois Morceaux Op.116(Godard)/3つの小品の組曲 作品 116(ゴダール)/ 商品ID:8464


予備知識

アナリーゼに関する用語

今回新しく登場する言葉は和音からアポジァトゥール(Appoggiature)、メロディーに関してアクサン・トニック(Accent tonique)、アクサン・エクスプレッシフ(Accent expressif)、アナクルーズ(Anacrouse)、デジナンス(Désinence)、ミュエット(Muette)です。

アポジァトゥールは日本語では「非和声音」の一つ「倚音」の事で、和音が始まると同時に現れ、その和音にいる間に2度上行または下行してその和音の中に解決する音を指す。フランスのアナリーゼではバロックにおける長前打音も含めてアポジァトゥールとして扱い、近代作品の分析では似た性格のものも含めてアポジァトゥールとする場合が多く、和音としての倚音以外の物も解釈上のアポジァトゥールとして扱う事もある。

@アクサン・トニック
強拍である事に由来する、当たり前のアクセント。原則としてはフレーズの中の強い頂点が必然的に強拍にあるもので、言葉のアクセントと同様のもの。ロマン派以後の作品ではアクセントが強拍上に無い曲も多いが、基本的に強拍上にあるものを指す。強拍上でない場合は次のアクサン・エクスプレッシフの場合が多い。

Aアクサン・エクスプレッシフ
メロディーとしての、表情の頂点としてのアクセント。多くは和声との関係が強く、緊張感の強い和音と共に現れる事が多い。特にメロディーの頂点がアポジァトゥールである場合、曲の強拍上にあるのが普通だが、それはすなわちアクサン・トニックとアクサン・エクスプレッシフが重なっている事になる。音楽的な意味合いにおいては、アクサン・エクスプレッシフの方が優位な要素であると考える。

Bアナクルーズ
フレーズの頂点へ向かう部分。あるいはアクサンに先立ち、アクサンに向かう部分。
例えばアクサン・トニックに向かう場合、小節線の前に置かれた1〜数音で構成される部分で、一見アウフタクトの様にとらえがちだが単なるビート概念ではなく、緊張感を高める性格の音あるいは音群で、アクサンへ向かうエネルギーの高揚も含めた意味合いを持つ。例えば、一歩大きく踏み出す時の、足の上げ始めから踏み込み直前までの動きのようなもので曲によってはかなり長い場合もある。対談の中で語った「上り坂」と考えて良い。

Cデジナンス
日本語では「屈折語尾」。
アクサン後の、数個の音のグループで構成される暫時的な落下感、落ち着き感のある部分。音程では暫時的に下行形、もし上行形ならばディミヌエンドを伴う場合が多い。対談中の「下り坂」。

Dミュエット
これは、本来、フランス語の語尾にある、eやs、tの様に、書かれているが発音しない字のことを指す。いわゆる「黙字」で、アクサンから続く、(1音の)弱い落下感のある音の事。例えばアクサン・エクスプレッシフがアポジァトゥールになっていて、そこから解決してすぐに次に続いて行く時の解決音が相当する。アポジァトゥールは和音が書かれていなくても感覚的には感じ取りやすいものなので、ソロでもアポジァトゥールやミュエットは分かると思う。基本的には1音のみを指し、閉じた響になる音。
以上をモーツァルトのアンダンテを使って説明する。


Marche harmonique(マルシュ・アルモニク 以下マルシュと略す)について

Marche(マルシュ)は「歩く」という意味で「和音の行進」といった意味だが、左右の足が交互に前へ出る動きを表した感じの言葉。日本の和声だと「和音の反復進行」に当たるが、少しニュアンスが違うのでマルシュ・アルモニクとして説明する。これが最も多く使われたのは後期バロック、とくにバッハの作品で、この和音の進行自体が表情を持ち、上下に揺らぐ音形が感情の起伏を表現しやすい。感覚的には演奏してすぐに分かる部分だと思うが、和声進行のアナリーゼでは最優先で見つけ出すべきもので演奏に直結するものなので少し詳しく説明する。

和声的にはマルシュではバスが上行下行(あるいは逆)しながら和音が変化する。

例えば和音の度数で言うと I - V - I - IV のパターンのペリオド全体が2度音程上昇したりするもので、この様なI - V - I - IV パターン等をモデル(modèle)と呼び、これに続く音程が変わって繰り返すペリオドをイミタシオン(imitation イミテーション 模倣)と呼ぶ。

マルシュ・アルモニクは転調を伴うもの(Marche modulant 以後転調マルシュとする)と一つの調の中で進行するもの(Marche unitonal 以後同調マルシュとする)に分かれる。

@Marche modulant 転調マルシュ

AMarche unitonal 同調マルシュ
モデル部分の典型的なパターンによって以下に分類される。

A. 和音度数が5度下がる。
イミタシオンに移行しても5度の下方転回は続くが、バスはモデルからイミタシオンに移る時、4度音程上がる。

B. 和音度数が5度上がる。
この場合バスはモデルからイミタシオンに移る時、4度音程下がる。

C. 和音度数が3度ずつ下がる。基本的にはバスも3度ずつ下がる。
バスはアルペジオで下行し、上声部は音階で上行する。

D. B、Cの合体型で和音度数が一つ飛ばしで3度ずつ下がり2つ目と4つ目が前の和音から4度下がるものをパッヘルベルのマルシュ(marche de Pachelbel)と言う。
イミタシオンに移行しても5度の下方転回は続くが、バスはモデルからイミタシオンに移る時、4度音程上がる。

実際の楽曲での例としてバッハのC-durのソナタで説明する。この曲はマルシュのパターンが非常に解りやすく、あまりにも典型的なパターン過ぎて、この観点から個人的にはバッハの作品であることに疑念を抱く。楽譜

曲の分析

≪Cécile Chaminade 作曲 フルートとピアノのためのConcertino Op.107≫

曲の構成 前回のフォーレのファンタジー同様基本的な構成を説明する。

コンチェルティーノとは小協奏曲という意味だが、3楽章形式のコンチェルトの場合、第1楽章はソナタ形式かリトルネロ形式、第2楽章は三部形式かリート形式、第3楽章はロンド形式が基本になるがシャミナードの場合はどうだろうか。

各フレーズは次のように分類される。

フォーレのファンタジーに比べると構成上はやや複雑で、定型の形式には当てはまらないが、これは終期ロマン派(ポストロマン派)にはよく見られる。要素としてはマエストーゾな性格を持つテーマA、たっぷりと歌われるテーマB、ヴィルトゥオーゾな面を一気に見せるテーマC、そしてカデンツァ、最後にコーダとなっており、テーマCとカデンツァの間にテーマAが短調で再現する。そしてカデンツァの後はしっかりとテーマA全体が再現、コーダはやや長く、一見小さめの第3楽章のようにも見えるが中心のメロディーはフレーズA(第一主題)なので、定義としてはコーダである。カデンツァ後のテーマAの再現は「再現部」と考えて良い。そうするとテーマAにはさまれた中間部(テーマBとテーマCからなる)を持つ三部形式と見なす事ができるのだが、ここで注目するのは、テーマAの主体であるフレーズAが何度も出てくるという事。コーダで使われている部分を含めると12回出てくる。テーマAではD-durのフレーズAはまず5度上へ転調してA-durとなり半音上行してB-durへ、根音にあたるBをクロマティック進行させてフレーズAはオクターヴ上に到達する。それ以外の場所ではテーマCとカデンツァの間にa-mollに転調したもの、そこから5度上へ転調してe-mollになったものが挟み込まれる。この様な構成はほぼリトルネロ形式とも取れる。

リトルネロ形式は、バロック期のコンチェルト、コンチェルト・グロッソに多く見られる形式で、バロック期のものは、ルフランを合奏で何度も繰り返し、その間に独奏を挟み込んだ構成で、ルフランが何度も現れる点でロンド形式に似ているが、ロンド形式のルフランが原則常に主調なのに対しリトルネロ形式では最初と最後以外は別の調性(属調や平行調等)になる。例えば曲としてはヴィヴァルディの五色ひわの第1楽章が典型的なもので、モーツァルトのD-durのコンチェルトの第1楽章では合奏によるルフランが5度上に転調したり、一部が短調に転調するなどリトルネロ形式に近い構成になっている。(G-durは典型的な協奏ソナタ形式)。シャミナードの場合はリトルネロ形式本来の合奏部分をフルートが演奏しているという事になるが、テーマBでもフレーズBによるリトルネロ形式風の構成になっている。

結論としてシャミナードのコンチェルティーノはリトルネロ形式を内包した3部形式である。

では、まず中心的な存在であるテーマAを分析してみる。

まずピアノでD-durの下行音階のオクターヴが始まりそこからフルートによるフレーズAが始まる。フルートが始まるとピアノには冒頭のオクターヴによる下行形が2オクターヴ上に和声付けされて現れ、そこからマルシュが印象的に始まる。フレーズAにはコマンテールが続くが、コマンテールはまずクロマティックで始まり、次にクロマティックの最後がアルペジオに変わり、それによってA-dur(5度上の調性)へ変化、フレーズA の再登場を迎える。このあたりはバロックの5度転調と同様の動き。このA-durのフレーズA-2のコマンテール部分の後半は上行下行する音階のフュゼーで、ピアノはバスにAの音をペダルとして持続させ、このAからクロマティック進行してB-durへと移行しフレーズA-3となり、最後のフュゼーの到着点で半音上行してHへ、そこからメロディーの中心音はクロマティックで上昇しフレーズAはついにオクターヴ上まで登りつめる。この時メロディー中心音のクロマティック上昇に伴う和音はクロマティック転調しているが、常にバスにA(D-durのドミナント)が現れ、ペダルとしてドミナントの性格を堅持してトニックに到達するのは、バッハのフーガでよく見られる手法。

テーマBでメロディーのアナリーゼを試みる。

テーマAでクロマティックはメロディーとしても和声進行としても使われているがテーマCでは和声進行とフュゼー、場面転換に効果的に使われている。



ワンポイント・アドヴァイス

ブレスの話は対談でも出たが、テーマAはしっかりと楽器を鳴らして歌っていくメロディーで、今回の演奏動画での生野さんのブレス位置で演奏できる人はプロでもほとんどいないと思うので、この位置でのブレスを理想形とした上で、もう少し現実的なブレス位置を示しておきたい。ちなみに循環呼吸が使えてもフレーズAがオクターヴ上に至ったDの伸ばしの後では、しっかりとブレスをして先に進んだ方が良い。(「ブレス」という表情があったほうが高揚する)。

ブレスの長さは、イメージの持ちようによってかなり長くできる事もある。私のパリ音楽院フルートクラス最後の年度は、教授がランパル氏からデボスト氏に変わり、突然オーケストラ・スタディをやることになった。そうするとまずドビュッシーの「牧神」から始まるのだが、全員普通にギリギリ一息で牧神を吹いたら「余裕が無いなぁ」と言って、デボストはイスに座って足を組んだままけっこう大きな音で吹き始め、フレーズ最後のAisを小節いっぱいまで伸ばしてそのまま2回目を吹いて(一息でフレーズ2回吹き切って)しまった !最初は「ああ、循環呼吸か」と思ったが、一息だったのでクラス全員ビックリでフリーズ状態……。ところがそれを見た瞬間に全員が最後のAisを小節いっぱいまで 伸ばしてけっこう大きな音で吹き切ってしまい、次のレッスンでは全員1.5フレーズ以上吹けるようになっていた。私を含めて多分誰もさらってなんかいないはず。練習よりイメージだ !!!!
ということで理想的な位置でのブレスを生野さんが動画の中でやっているので皆さん動画を見てイメージトレーニングしてみてください。見るだけで出来る人が出てくると思います。

この曲のカデンツァにはダイナミクスやニュアンスの指示がほぼ書かれていません。これは卒業試験課題曲として、どう演奏するかを受験者個人個人に問うような意図と思われます。したがってかなり自由に考えて(好き勝手に)演奏すれば良いのですが、やはり演奏として洗練されたスタイルの方が良いと思います。参考までに生野実穂版と加藤元章版の楽譜を掲載します。生野実穂版と加藤元章版の楽譜はこちら



第3回 G.エネスコ(次回掲載予定)


  • ムラマツ・メンバーズ・クラブ入会でもっとお得
  • お買い物ガイド

ニュース

年末年始休業のお知らせ
12月28日(土)〜1月6日(月)
年末年始休業前後の通信販売・発送業務について
大雪の影響による荷物のお届け遅延について
送料改定に関するお知らせ
荒天の影響による荷物のお届け遅延について
荒天の影響による荷物のお届け遅延について
す和ぶ「桜小紋」が数量限定で登場!
フルート♪名曲研究所を更新しました。
スタッフのおすすめ楽譜を更新しました。
年間売れ筋ランキング
輸入版新刊楽譜を更新しました。
「訳あり」商品を超特価で販売中。演奏に支障はございません。
プロクロス2024秋冬限定柄、入荷致しました。
カール・ライネッケ生誕200年特別企画を更新しました。
カール・ライネッケ生誕200年特別企画を更新しました。
カール・ライネッケ生誕200年特別企画
す和ぶ「菊唐草模様」が数量限定で登場!
す和ぶ「桜小紋」が数量限定で再登場!
【新刊書籍】フランス・フルート奏者列伝
日本海側の大雪の影響によるお荷物のお届けについて
能登半島地震の影響によるお荷物のお届けについて
夏期休業のお知らせ
8月10日(木)〜8月16日(水)
プロクロス2023秋冬限定柄、入荷致しました。
ご注文完了後のご注文確認メールについて
システムメンテナンスのお知らせ(9/28実施)

関連サイト

  • 株式会社村松フルート製作所
  • 村松楽器販売株式会社
  • ムラマツ・フルート・レッスンセンター
  • リサイタルホール新大阪